2019.09.09更新

 現在の民事裁判上、書類は全て「紙」で裁判所へ提出されます。一定の例外的な書面を除き、 FAXで送信されることもあり、民事訴訟規則第3条1項には「ファクシミリ」というやや前時代的な用語も残っています。


 最近、裁判手続の迅速化の観点から、2021年度には、準備書面などのウェブ提出が導入される旨報じられています。特許事件においては、民事訴訟規則第3条の2等に基づき、「紙」媒体と同時にword等のデータファイルも提出するよう裁判所から要請を受けますが、「紙」媒体自体の提出を止め、ウェブ提出のみに絞るという方向のようです。


 弊所が頻繁に扱う審決取消訴訟では、審判段階で提出された書面を、基本的書証として原告側が全て提出する必要があり、時にはその紙の量は膨大なものになります。手続上必要性の低いものまで全て印刷して提出することは、手間、時間、印刷コスト(こちらは依頼者に負担いただくことが多いです。)が非常にかかり、上記のウェブ提出については非常に良い傾向と考えます。


 また、このようなウェブ提出と合わせ、民事裁判の審理を半年以内とする特別な訴訟手続の導入が検討されていることも報じられています(https://www.sankeibiz.jp/workstyle/news/190904/cpd1909041540004-n1.htm)。通常、訴訟となると1年半から2年程度を要し、コストと時間を考えると訴訟に躊躇する企業の方も少なくありません。上記の特別な手続においては、両当事者が同意することが前提のようですが、書面のウェブ提出による素早い主張交換を背景にして、紛争の早期解決を目指す企業の方によって良い手続となることは間違いありません。

(神田)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2019.08.26更新

 特許に関する侵害訴訟や審決取消訴訟のうち、事案が複雑なものに関しては、主張立証が尽きた段階(一般の民事訴訟でいうと証人尋問のタイミング)で、当事者双方が一定の時間をもらって事案について口頭で説明を行う技術説明会が行われることがあります。この技術説明会は、事前に開催の有無・持ち時間・説明内容・説明の順番などが決められて、当事者双方が当日のプレゼンテーション準備に十分な時間をかけて行われるものです。

 

 これに対し、無効審判段階では、口頭審理当日に審判体から当事者双方に主張を口頭で説明するように促されたり、当事者が審判体の質問に口頭で回答したりすることはありましたが、事前に持ち時間が決められ、当事者双方が十分な準備をして説明に臨むということは行われていませんでした。


 ところが、小林・弓削田法律事務所で担当している無効審判事件で、最近になって、審理事項通知書段階で持ち時間が決められ、十分な準備期間をもらって説明をする、技術説明会類似の運用が行われるケースに遭遇しました。


 この件だけなのか、他の件でも同様の運用がなされているかは分かりません。しかし、もしかすると、今後は無効審判の段階でも、技術説明会の際に必要なプレゼンテーション能力が問われるようになるのかもしれません。

(河部)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2019.08.13更新

 株式会社リクルートキャリアが提供する「リクナビDMPフォロー」というサービスに関し、同社が学生の「内定辞退率」を、学生の同意を得ずに38社の企業に販売していたことが問題となっています。


 この件に関し、リクルートキャリアは、「リクナビでは、2019年3月に『リクナビDMPフォロー』について言及したプライバシーポリシーへ変更いたしました。学生の皆さまが使用する複数の画面においてプライバシーポリシーに同意いただくサイト構成になっていますが、一部の画面においてその反映ができていませんでした。また、プライバシーポリシー変更の際には、『リクナビDMPフォロー』で分析スコアの対象となるすべての学生から適切な同意が取得できるよう設計すべきところ、考慮が漏れてしまっておりました。」(https://www.recruitcareer.co.jp/news/pressrelease/2019/190805-01/)と説明した上、「リクナビDMPフォロー」を廃止することを決定しています。


 周知のとおり、個人情報保護法23条1項は、同項各号に定める事由以外では、本人の同意を得ない限り、個人データを第三者に提供することを禁止しています。また、個人情報保護法16条1項は、本人の同意を得ない限り、個人情報取得当時に特定された目的以外の利用を禁止しており、同項の違反も疑われるところです。


 では、本件では、どのような「同意」を得ればよかったのでしょうか。上記のリクルートキャリアの説明から推察される問題点としては、①「複数の画面」の一部においてプライバシーポリシーへの同意取得画面が落ちていたこと、②「リクナビDMPフォロー」のサービスの対象となる「全ての学生」から同意を得ていなかったことと考えられます。したがって、プライバシーポリシーにどのような記載がされているべきであったか、という内容の問題ではなく、プライバシーポリシー変更に際し、学生の同意を得るプロセスに問題があったものと考えられます。


 このようなプロセスの問題については、ウェブサイトの適切な設計を求める他ないですが、サービスを複数展開する会社においては、個人情報を取得するにあたって。サービスごとにプライバシーポリシーの同意を得るという運用を心掛けるべきです。なぜなら、サービスごとに取得する個人情報が異なり、それぞれについて本人の同意を得るプロセスが必須であるにもかかわらず、本件のようにあるサービスにおいて同意を得ていたことから、他のサービスでも当然同意を得ていたという「誤解」を生む可能性があるからです。また、サービス間において、勝手に個人情報を連携させることは個人情報保護法16条1項の目的外利用にも該当しうる行為ともいえますので、注意が必要です。


 本件は、適切なプライバシーポリシーの作成のみならず、その運用にも十分注意を払うべきことを想起させる事案といえます。

(神田)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2019.08.02更新

1 知財調停制度開始!
 少し前から業界で話題にはなっていますが、東京地裁と大阪地裁で、10月から新たに「知財調停」という制度の運用が開始されるそうです。8月1日に東京地裁のHPで指針が公表されました。
 この件については、弁理士会の研修所主催の継続研修がありました。私は今年から研修所の委員になったので、司会役に立候補して司会枠で受講をしてきました。
 タイミング的に合いますので、この新たな制度に対する私の個人的な感想を述べさせていただきたいと思います。

 

2 制度の内容
 この知財調停制度、法律が変わるわけではなく、従前あった民事調停制度の運用を少し変えて、知財に関する調停の場合には、一般の民事調停に携わっている裁判官・調停委員ではなく、知財部の裁判官・知財に携わる弁護士や弁理士の調停委員が担当してくれるというものです。
 侵害訴訟でも侵害論と損害論を分けて侵害か否か心証開示をするという運用がなされているため、当事者は裁判所がどう判断するかを考慮に入れながら和解交渉をしているわけですが、今回の知財調停はそれを調停という訴訟とは異なる制度の中で行えることになります。
 なお、調停でまとまらない場合には訴訟に移行できますが、その場合、調停を担当した裁判体とは別の裁判体が訴訟を担当するということでした。つまり、調停における裁判体が示した見解は、訴訟には引き継がれないということです。とはいえ、調停段階で裁判所が和解案などを提示した場合には、和解案の内容から裁判所の見立てが読み取れることもありますから、調停における和解案の内容を訴訟で証拠として提出して、訴訟の方の結論に事実上の影響を与えるといったことも考えられそうです。

 

3 新制度のメリットは?
 報道では、短期間で解決ができることがクローズアップされているようです。しかし、3か月から6か月で解決というのはあくまで目標であって、原則3回という期日も、当事者双方からの要請があればさらに回数を重ねられるとのことでした。直感的で判断のしやすい商標の類比などの事案であれば3か月から6か月で決着がつくケースもありそうですが、特許の案件について3か月で裁判所から充足論・無効論の心証を引き出すというのは、通常の案件では難しいと考えられます。
 むしろ、私個人としては、非公開ということや訴訟という手続でないことの方が、知財調停のメリットになるように思いました。
 訴訟の場合、第1回期日は公開の法廷で行われますから、訴訟があったこと自体は、世間に知られることになります(当事者がプレスリリースをしたり報道機関が報道したりでもしない限り、インターネットを見ればすぐに分かるということはありませんが、知財提訴データベースなどのサービスを使えば、全ての案件を把握することも可能です。)。これに対し、調停制度の場合は、申立ての有無も含め非公開です。訴訟をしていること自体を知られたくない場合、かつ、現実に判断を下す裁判官の意見がほしいという場合(この点が必要なければ、知財仲裁センターの調停でも同じことが実現できます。)には、利用価値がありそうです。
 もう一点は、訴訟という手続ではない点です。大企業の場合、知財訴訟をする場合には取締役会の決議が必要といった具合に、社内手続が大変で訴訟を断念するといったケースもなくはありません。会社によって社内手続も様々でしょうが、調停であれば知財部の判断で申立てができるといった企業にとっては、この知財調停という制度は使いやすいものになります。先ほど説明したとおり、訴訟に至った場合と同じ裁判体ではないですが、それでも裁判官が見解を示してくれるので、和解をする際に社内の合意も得られやすいかと思います。

 

4 大阪地裁のHPで更なる情報が…
 なお、東京地裁知財部のHPによれば、今の東京地裁のHPより詳しい内容が、9月頃に大阪地裁知財のHPで発表されるそうです。こちらも確認してまたブログをアップしたいと思います。

(河部)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2019.08.01更新

1 前回ブログに引き続き…
 前回のブログで「知財業界での初体験」をテーマに特許権移転登録手続等請求事件を担当したことを取り上げましたが、今回も私自身の初体験事案として、税関の輸入差止手続の利害関係人として意見書を提出した案件について書いてみたいと思います。

 

2 輸入差止手続の流れ
 輸入差止手続の流れですが、まず、申立人が税関宛てに輸入差止申立てを行います。以前は全国の税関で差止めをしたい場合、各税関に書類を提出しなければならず事務作業が大変だったようですが、今は最寄りの税関に申立てを行うだけで良くなっており、だいぶ楽になっています。
 申立てがあると、税関は輸入差止申立て申請内容を公表します(営業秘密案件を除く。)。
 申立てが受理され、認定手続が開始されると、輸入を差し止められると困る業者(輸入者)は、認定手続開始通知書の日付の翌日から起算して10執務日(生鮮疑義貨物については3執務日)以内に、意見書を提出しなければなりません(詳しくは税関のHPをご覧ください。)。公表に気づいてから10執務日以内ではありません。訴訟手続であれば、訴状が手元に届いてから(≒訴訟提起をされたことを知ってから)30日くらいは時間があるので、訴訟のスケジュール感が普通だと思っていた私からすると、輸入差止手続のスケジュールは利害関係人側にとって非常に厳しく、驚いてしまいました。
 輸入差止めを受ける可能性のある商品を輸入するのであれば、毎日税関のウェブサイトをチェックするのはもちろん、自分が輸入したいものが輸入差止手続に入ったことを知ったらすぐに知財の専門家に相談できる体制を整えていないと、このスケジュールに対応できないかもしれません。差止めを受けやすい商品かどうかは、過去に輸入差止めを受けた商品をチェックすれば雰囲気を掴めると思います。
 このような手続を経て、権利侵害に当たるか否かが認定されることになります。

 

3 税関の知的財産調査官の陣容
 私の体験した案件では、意見書の提出だけでなく、一度税関の知的財産調査官の方々と面接をして、現物を実際に見てもらう機会をいただけました。
 この案件を受任した際には、どこかの段階で専門委員(ちなみに弊所の弓削田弁護士も専門委員候補です。)にバトンタッチをするのかなと思っていましたが、実際に面接に行って知的財産調査官の方々とご挨拶をしたところ、特許庁から出向している調査官の方、弁理士の方など、知的財産調査官の肩書は錚々たるものでした。
 担当者となる知的財産調査官は申立てのあった税関の調査官でしたが、私が担当した案件では、東京税関で面接が行われ、審理は東京税関の総括知的財産調査官の方も多数関与して行われているようでした。地方で申立てをされたけれども、東京の代理人に依頼をしたという場合には、東京で面接をしてもらうように働きかけてみることをお勧めします。

(河部)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2019.07.01更新

 とある知財系の懇親会で、弁理士の内田浩輔先生から、7月1日の弁理士の日に、「知財業界での初体験」というテーマでブログを書いてほしいとのご依頼をいただきました。内田先生は、弁理士の日にブログをやっている知財関係者が同じテーマでブログを書くイベントを毎年やっているそうです。

 

 https://benrishikoza.com/blog/benrishinohi2019/

 

 「知財業界での初体験」ということで、何を書こうか悩みましたが、私の中で面白かった初体験事案として、初めて特許権移転登録手続等請求事件を扱った件を挙げてみたいと思います。

 

 一般に冒認を立証するのは大変ですが、私の担当した案件では、開発段階で非常に詳細なノートをつけていたこと、一緒に担当した弁理士の先生が証拠の細かいが重要な部分に気づいてくださったこともあり、最終的に冒認を認める内容の判決を得ることができ、記念すべき平成23年改正で導入された特許法74条1項に基づく特許権移転登録手続の第1号案件となりました!(移転登録手続をやっていただいた弁理士の先生が特許庁で「初めての手続なので…」と言われたということなので、確かだと思います。)

 もちろん和解によって解決している事件もあるのでしょうが、平成23年に改正されているのに、平成30年になって第1号案件ですから、やはり冒認関係の訴訟は少ないのだと思います。特に冒認立証について、貴重な経験ができました。

 

 最近になって、公正取引委員会から「製造業者のノウハウ・知的財産権 を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書」が発表されました。その中では、「ほとんど自社の技術を用いて行う名ばかりの共同研究開発であるにもかかわらず、その成果である新技術は、発明の寄与度に関係なく、全て取引先にのみ無償で帰属するという取引先作成の雛形で契約させられ、新技術を奪われる」(事例18)、「新しい発明を出願する場合には、取引先が一切関与していない場合でも、必ず共同出願にしなければならないという取引条件を一方的に受け入れさせられる」(事例20)、「完全に自社単独で生み出した技術であるにもかかわらず、取引先から共同出願とするよう強要されるとともに、自社が第三者へのライセンスを行う場合のみ取引先の承諾が必要となる契約まで締結させられる」(事例21)、といった事例が問題事例として取り上げられています。
 上記のような案件では、元々どちらの技術であったかが争点となり、公正取引委員会に動いてもらえるよう働きかけたり、独占禁止法違反に基づく民事訴訟を提起したりする場合、被害を受けた中小企業側で、自社の技術が奪われていることを立証する必要が出てくる可能性があります。
 冒認の事実が認められた珍しい案件である本件が、今後独占禁止法という別の分野で注目されることもあるかもしれません。

(河部)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2018.10.05更新

1 「個人データ」とは
 GDPRの4条1項は、GDPRの適用対象となる「個人データ」について、「識別された自然人又は識別可能な自然人(「データ主体」)に関する情報を意味する。識別可能な自然人とは、特に、氏名、識別番号、位置データ、オンライン識別子のような識別子を参照することによって、又は、当該自然人の身体的、生理的、遺伝的、精神的、経済的、文化的又は社会的な同一性を示す一つ又は複数の要素を参照することによって、直接的又は間接的に、識別されうる者をいう。」と規定しています。なお、以後GDPRの訳文については、個人情報保護委員会の公開している仮訳によります(https://www.ppc.go.jp/enforcement/cooperation/cooperation/GDPR/)。
 取り扱う情報がこの「個人データ」に該当しなければ、GDPRの適用はないので、ある情報が「個人データ」か否かは、GDPRが適用されるかの分かれ道になります。
 ここで重要なのは、直接個人を特定できる情報だけでなく、他の情報と組み合わせれば特定の個人を識別できる情報も含まれている点です(これを「モザイクアプローチ」といいます。)。
 例えば、車両の位置情報だけでは、個人を特定できません。しかし、カーナビ業者であれば、カーナビの個体番号等と照合すれば特定の個人を識別できます。車両の位置情報も、カーナビ業者にとっては「個人データ」になってしまうのです。
 このとおり、GDPR上の「個人データ」は極めて広い範囲の情報を指すため、氏名や住所が載っていないからといって、GDPRの適用はないと考えるのは危険です。


 
2 実体的範囲(処理自体の性質)
 上記の「個人データ」に該当したとしても、GDPRが規定する一定の処理が行われる場合でなければ、GDPRの適用はありません。
 GDPRが規定する一定の処理が行われる場合を定めるGDPRの1条を整理すると、
① 少なくとも一部が自動的な処理が予定されている場合(システムで管理する場合)、
② ファイリングシステム(GDPRの4条6項)の一部をなす場合、すなわち、一定の基準(50音順など)に従って分類・整序されている場合
となります。
 しかし、名刺フォルダの管理ですら②に該当すると考えられているため、残念ながら1条によってGDPR適用から逃れられることは少ないと思われます。

 

3 地理的範囲
⑴ 日本が活動拠点なら大丈夫?
 ここまでで、「個人データ」該当性や一定の処理に該当するかといった要件でGDPRから逃れることは難しいことが分かりました。しかし、このブログを読んでくださっている方は日本国内にいらっしゃる方がほとんどかと思います。日本で活動しているのに、EUの法律を気にしなければいけないのでしょうか?適用の地理的範囲が問題になります。


⑵ EU域内に「拠点」があるとアウト
 まず、GDPRの3条1項は、「本規則は、その取扱いがEU域内で行われるものであるか否かを問わず、EU域内の管理者又は処理者の拠点の活動の過程における個人データの取扱いに適用される。」と規定しています。
 したがって、実際の個人データ処理自体はEU域内で行われなくとも、管理者又は処理者がEU域内に「拠点」を有している限り、GDPRが適用されることとなります。
 ここでいう「拠点」(establishment)とは、「安定的な仕組みを通じて行われる実効的かつ現実の活動の実施を意味する」(GDPR前文22項)ので、形式的に支店や子会社が存在しないだけではGDPRの適用から逃げられません。当該加盟国で「実効的かつ現実の活動」を行っているかという実質的な要件で判断されます。


⑶ 「拠点」がなくても適用される場合も…
 とはいえ、相当グローバルに活動していない限り、EU域内に「拠点」は持っていないでしょう。では安心して大丈夫なのか?そうは言い切れません。
 EU域内に管理者又は処理者の拠点がない場合であっても、
① データ主体の支払いが要求されるか否かを問わず、EU域内のデータ主体に対する物品又はサービスの提供
② データ主体の行動がEU域内で行われるものである限り、その行動の監視
のどちらかをしていると、GDPRが適用されます(GDPRの2条2項)。
 ①については、例えば、日本企業が欧州EU域内の個人に対し旅行企画を提供する場合が典型です。ここで、「サービスの提供」といえるためには、単なるEU域内に関する連絡先等が記載されているだけでは足りず、EU域内の言語、貨幣、ドメインネームなどに言及があることが必須と考えられています。
 ②は、「監視」と規定されていますが、典型的には、Web広告の閲覧履歴やGPS位置データなどの取得・分析がこれに当たります。したがって、EU域内の個人に対しいわゆる行動ターゲティング広告をする場合には、GDPRが適用されます。
 このように、日本から一歩も出ていない企業でも、GDPRを適用されてしまうことがあるのです。

 

4 次回
 以上から、日本から一歩も出ていないのに、GDPR対策をしなければならない場合があることが分かりました。次は、GDPRから逃れられない場合に、どうやったら個人データを適法に取り扱ったことになるのか、説明します。

(神田)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2018.08.24更新

1 GDPR施行

 EUの一般データ保護規則(以下「GDPR」といいます。)が、平成30年5月25日に施行されました。施行の直前は大々的に騒がれていましたが、3か月が経過し、ニュースとしては下火になってしまいましたね。
 EUにおける「規則」(regulation)は、その制定により自動的に各国の国内法の一部となり、国内において適用・執行されます(一般適用性)。したがって、GDPRは、EU域内の承認・立法化を要せず、当然に各国において適用されます。しかも、EU域外の企業にも適用される場合があるため、「うちはヨーロッパに支店なんてないから…」と無視しているわけにもいきません。

 

2 なぜGDPRの対応?
 GDPRの施行直前、世間を大いに賑わせていた理由の一つが、GDPRに違反した場合の制裁金の大きさにあります。
 GDPR第83条(以下、条文のみを示す場合は、GDPRを指します。)は、2項及び3項において、GDPRに違反した場合の制裁金の額を、
①1000万ユーロ(日本円約13億円)又は企業の前年度世界売上2%相当のいずれか高い金額

②2000万ユーロ(日本円約26億円)又は企業の前年度世界売上4%相当のいずれか高い金額
と規定しています。これは最大額であり、必ずしもこの金額満額が科されるわけではありませんが、途方もない金額が制裁金として予定されていることが分かります。
 Googleに対して競争法違反を理由に約5700億円という巨額の制裁金を支払うように命じたことが記憶に新しいEUのこと、当局は「GAFA」(Google、Apple、Facebook、Amazon)あたりに巨額の制裁金を課すべく着々と準備を進めていて、しばらくすると巨額の制裁金でまた世界を震撼させるのではないか、と予想しているのは、我々だけではないと思います。
 忘れた頃に、きっと全世界がGDPRに再注目する日が来るはずです。

 

3 GDPRの概要
 GDPRは、前文173項及び本文99条で構成される「大きな」規則であり、しかも、規定内容が抽象的で、一読して理解するのは困難です。
 もっとも、章ごとに追いかけると、以下のとおり、総則、原則、定義から始まり、各事業者の義務、機関、制裁と、日本の行政法規によく似た作りになっています。

 第1章 総則
 第2章 原則
 第3章 データ主体の権利
 第4章 管理者及び処理者
 第5章 第三国又は国際機関への個人データ移転
 第6章 独立監督機関
 第7章 協力及び一貫性
 第8章 救済・責任・制裁
 第9章 特別の処理状況
 第10章 委任行為及び実施行為
 第11章 最終条項

 以上の各章の条項全てを理解する必要はありません。GDPRは規定内容が抽象的な上、施行されて間もないため、どのような場合にGDPRの適用があるのか不明確な部分が多々あります。企業としては、まずは対応をする必要があるのか、必要がある場合には差し当たり何をすればよいのか理解するところから始めれば十分です。

 

4 次回

次回は、GDPRの適用範囲について解説します。

(神田)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2018.04.16更新

1 背景 
 現地の優秀な技術者の確保、現地ニーズを把握した製品開発の必要性などから次の記事でも報道されているとおり、東南アジア各国の子会社で研究開発(R&D)が行われ、発明が生まれる環境になってきています。

 

 ・「日本電産、シンガポールにモーターの研究開発拠点」(日本経済新聞、2012年6月7日)

 ・「ベトナムで洗濯機工場を開所 パナソニック」(日本経済新聞、2013年3月20日)

 ・「ダイハツ、インドネシアに研究開発センター」(日本経済新聞、2011年5月30日)

 ・「トヨタ、タイで開発『自立』技術者1400人体制に」(日本経済新聞、2015年10月6日)

 

 もっとも、海外法務については現地に法務担当者がおらず現地法令や現地実務の把握が十分にできていない会社が多いのが現状でしょう。
 特段、職務発明規程や契約がなければ現地の法律がそのまま適用されることになり、従業員の退職後に使用者にとって予測困難な金額を請求されるリスクがあります。会社としては、会社に従業員発明が帰属するようにしたい、また、従業員への報奨金の支払いが必要な場合、適切な相場の金額としたいでしょう。
 職務発明への対応は、規程の整備や契約により事前にルールを取り決めておくことでリスクを軽減できる分野でもあります。

 

 

2 職務発明対応の視点

(1)会社への職務発明の帰属
 総論としていえば、東南アジアでも原則として「発明者」に発明が帰属するものの、使用者への発明の帰属を認める職務発明制度を有する国が大多数です。具体的には、使用者の設備やリソースを使用した場合に使用者帰属とする法制が比較的多く採用されています(もっとも、国によって異なるため個別に確認が必要です。)。
(2)報奨金の支払い
 会社に職務発明を帰属させる対価として一定の報奨金の支払い義務を課す発明報奨制度を有するかは国によってばらつきがあります。そもそも発明報奨制度がなく契約で比較的自由に制度設計できる国もあれば(シンガポール)、契約によって報奨請求権を排除できないと法律で明示している国もあります(タイ)。支払いの相場についても日本の基準に現地の物価を加味して検討しますが、これはなかなか難しい問題です。
 なお、日本のように会社が一方的に職務発明規程を定めることができる制度は例外的なため、従業員との合意(契約)が必要になるとご理解ください。
(3)整備の進め方
 整備の進め方としては日本の職務発明規程を英語にし、国に合わせて必要な修正を行いローカライズしていくことが多いです。

 

 

3 タイにおける職務発明対応
 具体例として、タイにおける対応を取り上げます。
(1)職務発明の要件
 タイ特許法11条は、次のとおり規定しています。なお、特許法と特許法に基づく省令(Ministerial Regulations)第24号(B.E. 2542、以下「省令」といいます。)の日本語訳は、特許庁「外国産業財産権制度情報」掲載の和訳に従っています。

 また、英訳もWIPOのウェブサイトに掲載されています。

 

タイ特許法11条

雇用契約又は一定業務の遂行を目的とする契約の下でなされた発明の特許を出願する権利は、その契約に特に定めがない限り使用者又は業務委託者に帰属するものとする。
第1段落の規定は、雇用契約上従業者が発明活動を行うことを義務付けられてはいないものの、雇用契約に基づき自由に利用することのできる手段、データ又は報告を使用して発明を行った場合にも適用するものとする。

 

(2)職務発明に伴う報酬請求権
 報酬請求権については、タイ特許法12条及び省令3条が規定しています。

 

タイ特許法12条

第11条第1段落に規定された状況において発明活動を奨励し従業者に公平を期するため、従業者の行った発明から使用者が利益を受ける場合は、かかる従業者は、通常の賃金の他に報酬を受ける権利を有するものとする。
第11条第2段落に規定された従業者たる発明者は、報酬を受ける権利を有するものとする。
かかる報酬を受ける権利は、契約規定によって排除することができない。
本条第1段落及び第2段落に基づく報酬の請求は、省令の規則及び省令に定める手続に従い長官に提出しなければならない。長官は、従業者の賃金、発明の重要性、当該発明から派生したか又は派生が見込まれる利益及び省令に規定する他の状況を斟酌して従業者に適当と思われる報酬額を定める権限を有するものとする。

 

省令3条

報酬の請求は、発明特許…の付与後にのみ行うことができ、またかかる特許…の付与を知った後1年以内に行わなければならない。従業者が特許…が付与されたことを知らなかったことについて正当な理由がある場合、従業者は、当該特許…の満了前にいつでも報酬を請求することができる。

 

省令8条によれば、特許法12条4項の報酬額を決定する際には、知的財産局長官は次の事項を考慮するものとされています。

 

①従業者の職務内容

②従業者が発明又は意匠を創作するために供した労力及び技能
③他の者が当該従業者と共同で発明又は意匠を創作するために供した労力及び技能、並

 びに共同発明者又は共同創作者ではない他の従業者が提供した助言その他の援助

④使用者が、発明又は意匠の実験、展開又は実施のための資源又はサービスを取得する

 にあたり財産、助言、施設、予備作業又は管理業務を提供することによって発明又は

 意匠の創作のために行った援助

⑤当該発明又は意匠の実施を他者に許諾すること(他者への特許の譲渡を含む。)によ

 って従業者が得たか又は得ることが見込まれる利益

⑥共同で発明を行ったか又は意匠を創作した従業者の総数

 

(3)ルール策定の留意点
 まず、契約によって従業員の報酬請求権を排除できないと明示されていますので、注意が必要です。
 また、タイ法弁護士から聞いたところによれば、従業員が知的財産局長官に報酬の算定を求める場合、1年以上の時間がかかるということです。そのため、会社が一定のルールに従った金額を支払ってもなお不満として従業員が長官への算定手続を行うリスクは一般的には低いといえます。
 支払いのタイミングは、特許登録後に従業員は報酬を請求することができるという法制になっています。そのため、日本の職務発明規程では、出願時にも支払うとされていればルールを修正し、登録後に支払うと規定します。
 その他、従業員が特許の付与を知ったときから1年以内に請求するという制度ですので、特許が登録された場合、会社から従業員に特許登録されたことを通知する、というルールにしておくべきでしょう。

 

 

4 リードカウンセルの役割
 海外の職務発明への対応は、複数国の子会社の現状をヒアリング、調査し、まとめて進めることが実務上多いと思います。しかし、このような案件について、日本の法務、知財担当者が各国の法律事務所に依頼して個別に対応するのは非常に手間と時間がかかります。
 弊所のようにこの分野で経験があるリードカウンセルが間に入ることで、窓口を一本化でき、日本語でのやりとりも可能となり、会社担当者の負担を大きく軽減することができます。また、日本語での補足説明、方針のアドバイスを提供することで、ポイントを踏まえて効率的に整備を進めることができます。

 

(弁護士 木村 剛大)

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.05.08更新

1 刑事罰の強化

 前回のブログでは、不正競争防止法が改正されたことに伴い、民事上の救済が強化されたことについてご説明しましたが、今回は刑事罰が強化されたことをご説明します。改正点が多いですが、企業の方の営業秘密を守るため、効果的な規定についてご説明します。

 

 

2 情報流出による被害拡大防止

 新日鐵住金の元社員がポスコと共謀して、新日鐵住金の営業秘密を外国企業へ漏えいした事件をご存知の方も多いと思います。この事件において、新日鐵住金は、ポスコに対して、約1000億円の損害賠償を請求しており、営業秘密が侵害された場合の被害の大きさが伺い知れます。

 このような甚大な被害が発生するにもかかわらず、不正競争防止法では、刑事罰について限定的な規定しか置いていませんでした。すなわち、そもそも親告罪である上、未遂規定もなく、国外犯についての処罰が限定的でした。これでは、犯罪を行って刑罰を科される不利益を、営業秘密を利用することによる利益が上回り、刑罰が犯罪の抑止力となっていません。

 そこで、以下のとおり、今般、営業秘密を侵害する行為について、刑事罰を科す範囲を広くするとともに、かつ量刑が重くなりました(海外重罰及びその量刑については割愛します。)。

 

 

3 営業秘密の転得者処罰の範囲拡大

 これは、「インターネットの発展」や「IT化」により営業秘密が転々流通する危険性に対応するものです。

 改正前の不正競争防止法においては、最初に営業秘密を取得した者からさらなる不正開示を受けた者(以下「二次取得者」といいます。)のみが処罰の対象とされていました(旧法21条1項7号)。

 今般の不正競争防止法の改正により、かかる二次取得者の処罰規定を残しながらも、さらに営業秘密を不正取得した、三次取得者、四次取得者、五次取得者・・・についても、処罰対象とする旨の規定が追加されました(改正法21条1項8号)。

 もっとも、三次取得者、四次取得者などは、それまでの事情を全く知らずに営業秘密を取得する場合があり、このような場合にまで刑事罰を科すことは妥当ではありません。そこで、三次取得者以降の者の処罰については、不正開示された営業秘密であることを知って取得した場合に限定されています。

 

 

4 未遂規定の新設

 従来、営業秘密侵害行為については、既遂犯のみが処罰されていました。例えば、営業秘密にアクセスしようとしたものの、営業秘密を取得しなかった(できなかった)場合や、営業秘密を開示しようとしたものの、開示先に届かなかった場合などは処罰の対象となっていませんでした。

 今般の改正により、このようないわゆる「未遂」行為についても処罰の対象となりました(改正法21条4項)。これにより、営業秘密が「取得」されたという立証が困難な場合でも、アクセスログ等により、営業秘密にアクセスしたという事実のみで処罰が可能となります。もっとも、どの時点までいけば「未遂」と評価できるのかは、刑法の議論も絡み、なかなか容易ではありません。

 

 

5 営業秘密侵害罪の非親告罪化

 今般の改正により、営業秘密侵害罪が非親告罪化されました(改正法21条5項)。親告罪とは、告訴がなければ刑事罰を科すことができない犯罪類型をいい、非親告罪とは、その逆、すなわち、営業秘密を保有する企業が告訴をしなくとも、警察や検察の主導により立件することが可能な犯罪類型をいいます。

 営業秘密は、企業のノウハウとして自社管理されているものですが、かかる営業秘密を不正使用した者に対して刑事罰が科せられる場合、民事上の裁判と異なり、刑事裁判は原則公開されますので、営業秘密も公開されてしまいます。これでは本末転倒です。そこで、従来は、このような営業秘密の公開という不利益を甘受しても刑事罰を科すか否かの判断を企業に委ねていたわけです。

 しかしながら、平成23年の不正競争防止法の改正により、刑事裁判の公判審理において、営業秘密を明らかにしない秘匿決定等の手続(改正法23条以下)が整備され、刑事裁判において営業秘密が公開されるという上記の問題点が大きく解消されました。そこで、もはや営業秘密侵害罪について親告罪化する必要性がなくなったことなどの考慮があり、上記の改正がなされました。

 もっとも、営業秘密侵害罪については、警察が企業の内部情報を十分把握しているわけではないため、これを立件するには、企業の方の協力は不可欠です。上記のご説明を白紙にしてしまうようですが、捜査機関に営業秘密侵害行為がなされたことを認知させるために告訴はやはり必要であろうと考えられます。

 

 

6 刑事手続の効果的な利用のススメ

 営業秘密が侵害されたと判明した場合、企業の方が採り得る手段としては、侵害者に対して民事上の責任を追及するというのがまず第1に思い浮かぶと思います。

 しかしながら、企業の方が自ら収集できる証拠について限界があり、国家権力と私人では、強制力をもった捜査権限を有するか否かで大きな違いがあります。そこで、刑事手続を利用して捜査機関に証拠を収集してもらうことは非常に有用です。

 その際には、警察・検察に告訴をした上で、上記の秘匿決定の申入れをし、刑事の公判手続において営業秘密が公開されてしまわないよう、警察・検察とよくご相談することをおすすめいたします。

 

(神田)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

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