2017.05.08更新

1 刑事罰の強化

 前回のブログでは、不正競争防止法が改正されたことに伴い、民事上の救済が強化されたことについてご説明しましたが、今回は刑事罰が強化されたことをご説明します。改正点が多いですが、企業の方の営業秘密を守るため、効果的な規定についてご説明します。

 

 

2 情報流出による被害拡大防止

 新日鐵住金の元社員がポスコと共謀して、新日鐵住金の営業秘密を外国企業へ漏えいした事件をご存知の方も多いと思います。この事件において、新日鐵住金は、ポスコに対して、約1000億円の損害賠償を請求しており、営業秘密が侵害された場合の被害の大きさが伺い知れます。

 このような甚大な被害が発生するにもかかわらず、不正競争防止法では、刑事罰について限定的な規定しか置いていませんでした。すなわち、そもそも親告罪である上、未遂規定もなく、国外犯についての処罰が限定的でした。これでは、犯罪を行って刑罰を科される不利益を、営業秘密を利用することによる利益が上回り、刑罰が犯罪の抑止力となっていません。

 そこで、以下のとおり、今般、営業秘密を侵害する行為について、刑事罰を科す範囲を広くするとともに、かつ量刑が重くなりました(海外重罰及びその量刑については割愛します。)。

 

 

3 営業秘密の転得者処罰の範囲拡大

 これは、「インターネットの発展」や「IT化」により営業秘密が転々流通する危険性に対応するものです。

 改正前の不正競争防止法においては、最初に営業秘密を取得した者からさらなる不正開示を受けた者(以下「二次取得者」といいます。)のみが処罰の対象とされていました(旧法21条1項7号)。

 今般の不正競争防止法の改正により、かかる二次取得者の処罰規定を残しながらも、さらに営業秘密を不正取得した、三次取得者、四次取得者、五次取得者・・・についても、処罰対象とする旨の規定が追加されました(改正法21条1項8号)。

 もっとも、三次取得者、四次取得者などは、それまでの事情を全く知らずに営業秘密を取得する場合があり、このような場合にまで刑事罰を科すことは妥当ではありません。そこで、三次取得者以降の者の処罰については、不正開示された営業秘密であることを知って取得した場合に限定されています。

 

 

4 未遂規定の新設

 従来、営業秘密侵害行為については、既遂犯のみが処罰されていました。例えば、営業秘密にアクセスしようとしたものの、営業秘密を取得しなかった(できなかった)場合や、営業秘密を開示しようとしたものの、開示先に届かなかった場合などは処罰の対象となっていませんでした。

 今般の改正により、このようないわゆる「未遂」行為についても処罰の対象となりました(改正法21条4項)。これにより、営業秘密が「取得」されたという立証が困難な場合でも、アクセスログ等により、営業秘密にアクセスしたという事実のみで処罰が可能となります。もっとも、どの時点までいけば「未遂」と評価できるのかは、刑法の議論も絡み、なかなか容易ではありません。

 

 

5 営業秘密侵害罪の非親告罪化

 今般の改正により、営業秘密侵害罪が非親告罪化されました(改正法21条5項)。親告罪とは、告訴がなければ刑事罰を科すことができない犯罪類型をいい、非親告罪とは、その逆、すなわち、営業秘密を保有する企業が告訴をしなくとも、警察や検察の主導により立件することが可能な犯罪類型をいいます。

 営業秘密は、企業のノウハウとして自社管理されているものですが、かかる営業秘密を不正使用した者に対して刑事罰が科せられる場合、民事上の裁判と異なり、刑事裁判は原則公開されますので、営業秘密も公開されてしまいます。これでは本末転倒です。そこで、従来は、このような営業秘密の公開という不利益を甘受しても刑事罰を科すか否かの判断を企業に委ねていたわけです。

 しかしながら、平成23年の不正競争防止法の改正により、刑事裁判の公判審理において、営業秘密を明らかにしない秘匿決定等の手続(改正法23条以下)が整備され、刑事裁判において営業秘密が公開されるという上記の問題点が大きく解消されました。そこで、もはや営業秘密侵害罪について親告罪化する必要性がなくなったことなどの考慮があり、上記の改正がなされました。

 もっとも、営業秘密侵害罪については、警察が企業の内部情報を十分把握しているわけではないため、これを立件するには、企業の方の協力は不可欠です。上記のご説明を白紙にしてしまうようですが、捜査機関に営業秘密侵害行為がなされたことを認知させるために告訴はやはり必要であろうと考えられます。

 

 

6 刑事手続の効果的な利用のススメ

 営業秘密が侵害されたと判明した場合、企業の方が採り得る手段としては、侵害者に対して民事上の責任を追及するというのがまず第1に思い浮かぶと思います。

 しかしながら、企業の方が自ら収集できる証拠について限界があり、国家権力と私人では、強制力をもった捜査権限を有するか否かで大きな違いがあります。そこで、刑事手続を利用して捜査機関に証拠を収集してもらうことは非常に有用です。

 その際には、警察・検察に告訴をした上で、上記の秘匿決定の申入れをし、刑事の公判手続において営業秘密が公開されてしまわないよう、警察・検察とよくご相談することをおすすめいたします。

 

(神田)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.04.27更新

1 不正競争防止法の改正

 弊所では特許訴訟を主な業務としておりますが、企業の技術上の情報を守る手段は特許だけではありません。

 特許権を有している場合、これを侵害している者に対しては、過失や損害額の推定が働くなど非常に有利な立場に立つことができます。もっとも、特許出願してしまうと、対外的に公開されてしまう上、出願から20年を経過すると、当該特許権は期間満了として行使できなくなってしまいます。このように、特許権は非常に「強い」権利でありながらも、種々の法律上の制約があります。

 このような法律上の制約を免れるため、技術上・営業上の情報を「営業秘密」として自社管理しながらも、これを冒用する第三者に対して法律上の請求(差止請求や損害賠償請求)ができる法律が必要となります。このような営業秘密を冒用する行為などを「不正競争」と捉え、種々の法律上の保護を与えるものが不正競争防止法です。

 今般、このような営業秘密の価値をさらに向上させるべく、不正競争防止法が改正されることとなりました。簡単ではありますが、改正の概要をご説明させていただきます。

 

 

2 施行日

 以下ご説明する改正不正競争防止法は、平成27年7月3日に成立し、同月10日に公布され、平成28年1月1日より施行されています。

 したがって、現時点において、不正競争防止法の適用を考えるにあたっては、改正法を見る必要があります。

 

 

3 民事上の救済

(1)侵害品の譲渡等の禁止(改正法2条1項10号)

 改正不正競争防止法2条1項10号は、

 「十 第四号から前号までに掲げる行為(技術上の秘密(営業秘密のうち、技術上の情報であるものをいう。以下同じ。)を使用する行為に限る。以下この号において「不正使用行為」という。)により生じた物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為(当該物を譲り受けた者(その譲り受けた時に当該物が不正使用行為により生じた物であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)が当該物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為を除く。)」

を「不正競争」と定義しています。

 これは、不正に取得された技術上の情報を使用して製造された物品を譲渡等する行為や、当該物品を譲り受けた者が、譲り受けた時点において悪意・重過失であった場合に、その者が譲渡等する行為を禁止するものです。その趣旨は侵害品の流通を禁止し、もって営業秘密の保護を強化するものです。もっとも、営業秘密のうち、「技術上の情報」に限定されていることに注意が必要です。

 

(2)推定規定の追加(改正法5条の2)

 改正不正競争防止法5条の2は、

 「技術上の秘密(生産方法その他政令で定める情報に係るものに限る。以下この条において同じ。)について第二条第一項第四号、第五号又は第八号に規定する行為(営業秘密を取得する行為に限る。)があった場合において、その行為をした者が当該技術上の秘密を使用する行為により生ずる物の生産その他技術上の秘密を使用したことが明らかな行為として政令で定める行為(以下この条において「生産等」という。)をしたときは、その者は、それぞれ当該各号に規定する行為(営業秘密を使用する行為に限る。)として生産等をしたものと推定する。」

と規定しています。

 長い条文ですが、分解すると、

  ① 技術上の秘密(生産方法その他政令で定める情報に係るもの)について、

  ② 第二条第一項第四号、第五号又は第八号に規定する行為(営業秘密を取得

   する行為に限る。)があった場合において、

  ③ その行為をした者が当該技術上の秘密を使用する行為により生ずる物の生

   産その他技術上の秘密を使用したことが明らかな行為として政令で定める

   為(以下この条において「生産等」という。)をしたとき、

において、

その効果として、

  その者は、それぞれ当該各号に規定する行為(営業秘密を使用する行為に限る。)

 として生産等をしたものと推定する、

という規定となっています。

 方法の発明などは、被疑侵害者が当該方法を用いているのか、相手方の工場や研究所に立ち入って見ない限り、権利者側としては把握することが困難ですが、相手方がそう簡単に立入りを認めてくれるはずがありません。制度としては証拠保全(民事訴訟法234条)という手もありますが、難しいのが実情です。そうなると、特許ではなく、営業秘密として保護しようという企業も多くなります。

 この改正は、営業秘密を不正取得した者は、リスクを負って不正取得した以上営業秘密を使用するであろうとして、当該営業秘密にかかる生産方法を使用したものと推定し、相手方が営業秘密を用いていることについて、ノウハウを営業秘密として保護しようとした権利者側の立証のハードルを低くし、もって万が一営業秘密が漏れてしまった場合の手当てをするものです。特許法には、物を生産する方法について似たような規定がありますね(特許法104条)。

 

 ①については、当該情報が、技術上の情報かつ生産方法であることを要求するものです。したがって、営業上の情報である顧客のリストや、製品の説明図など生産方法を示さないものは第5条の2の適用を受けられません。なお、政令で定める情報について、未だ審議中のようです。

 ②は、営業秘密の取得時点における被告の主観的悪質性を問題とするものです。すなわち、不正取得行為(2条1項4号)、不正取得介在後の悪意重過失による取得(同5号)、不正開示行為が介在したことにつき悪意重過失の取得(同8号)が対象であり、取得後に悪意・重過失になる場合(6号、7号、9号)は除かれています。

 ③については、①に対応しており、当該営業秘密が生産方法であれば、営業秘密と被告の生産した物との関係で一定の関連性を要求するものです(政令で定める情報についても、当該情報と被告の行為との関連性を要求しています。)。

 以上の①乃至③を原告側が立証できたときには、第5条の2の効果として、被告による営業秘密の不正使用行為が推定されます。したがって、被告側において、当該営業秘密を「使用していない」との「立証」を行う必要があります。

 

(3)除斥期間の延長(改正法15条)

 旧法においては、営業秘密の不正使用に対する差止請求権については消滅時効が3年、除斥期間が10年とされていましたが、今回の改正により除斥期間のみが20年に延長され、営業秘密の保護が厚くなりました(改正不正競争防止法第15条)。

 なお、以上の除斥期間に関する改正のみ、公布日である平成27年7月10日より施行されました。したがって、平成27年7月10日時点において、除斥期間が経過していない営業秘密については、改正法が適用され、除斥期間が20年に延長されることとなります。

 

 

4 次回

 次回は刑事上の救済についてご説明いたします。

 

(神田

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.04.13更新

 以前の印紙税ブログ①印紙税ブログ②では、課税文書の区分けや、具体的な判断方法についてご説明いたしましたが、今回は、印紙を貼らなかった場合や貼り過ぎてしまった場合についてご説明します。

 

1 印紙を貼らなかったら?

 (1)契約は有効

 よくご相談を受けるのは、「印紙を貼らなかった場合には、契約は無効になるのですか?」というものです。

 この問題に関しては、民法の原則との関係で考えれば結論が出ます。民法上、契約とは、当事者間の意思表示が合致したときに成立するものとされており、原則としてそれ以外の事由により成立が妨げられることはないと考えられています。そもそも、印紙を貼るか否かは、税法上の問題であって、契約の成否とは直結しません。

 したがって、印紙を貼らなくとも、原則として契約が不成立又は無効となることはありません。

 

 (2)過怠税が課せられる

 税法上の問題に移ると、もし貼るべき印紙を貼らなかった場合、過怠税というものが課せられます。過怠税の計算方法は以下のとおりです(印紙税法20条1項)。

 

 「当該納付しなかつた印紙税の額」+「その二倍に相当する金額」

 

 つまり、納めるべき印紙税額の3倍の印紙税が課せられるのです。例えば、1000円の印紙を貼るべき場合にもかかわらず、当該印紙を貼らなかった場合、1000円+1000円×2=3000円の過怠税が課せられます。

 もっとも、ブログ①や②でご説明したとおり、印紙税がいくらかというものは、我々法律家でも即答できないものがあります。それにも関わらず、貼るべき印紙の額が足りなかったことをもって過怠税が課せられるのはなかなか厳しいものがあります。

 そこで、課税文書の作成者が所轄税務署長に対し、作成した課税文書について印紙税を納付していない旨の申出をした場合で、その申出が印紙税についての調査があったことによりその課税文書について3倍の過怠税の決定があるべきことを予知してされたものでないときは、その過怠税は、その納付しなかった印紙税の額とその10%に相当する金額との合計額(すなわち印紙税額の1.1倍)になります(印紙税法20条2項)。

 なお、ここでいう「印紙を貼り忘れる」とは、印紙に消印をしない場合も含むため注意が必要です(印紙税法20条3項、8条2項)。

 

 (3)故意に貼らなかった場合は?

 本ブログをご覧になっている方の中にはいないと思いますが、課税文書であるにもかかわらず故意に印紙を貼付しなかった場合には、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処せられる可能性があります(印紙税法22条1号)。

 

2 印紙を貼り過ぎた場合は?

 印紙を貼らなくてもよい契約書に印紙を貼ってしまった場合や印紙を貼り過ぎてしまった場合には、税務署に申告することにより過誤納金として還付を受けることができます。

 また、消印していない場合には、郵便局へ持参することにより、貼付していない印紙と交換してもらえるサービスもあります。

 

(神田)

 

 

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.04.04更新

 今回は、裁判所における訴訟手続(民事事件)と特許庁における無効審判手続(取消審判手続も含む。)の違い、それも制度上の違いというよりも、実際に経験しなければなかなか知ることはないと思われる運用上の違いについて、簡単に触れてみたいと思います。

 

1 特許庁の口頭審理

 特許庁の口頭審理期日と裁判期日の違いとして弁護士の視点で感じることは、特許庁の方が総じて手続に対して厳格なところです。

 特許庁では、審判官それぞれの自己紹介や請求人被請求人代理人の氏名の確認に始まり、証拠調べの原本確認、調書記載事項の確認なども非常に厳格に行います。

 また、最近は形式的な事項の確認のみにとどめられることが多いですが、裁判所の期日と異なり基本的に1回きりですから、以前はかなり長丁場で技術論の応酬をすることもありました。

 

2 裁判所の期日

 これに対し、裁判所では、当事者間に争いのある場合は別ですが、争いがない手続については非常に効率を重視し、期日はスピーディに展開します。初めて訴訟を経験される方は、びっくりするかもしれません。

 期日で確認される内容ですが、民事訴訟は基本的に書面の内容が重視され、期日では分かりにくい点の確認がなされる程度のことが多いです。もっとも、最近の知財訴訟は書面に記載した内容でも口頭で確認することも多く、かなり長い時間争点整理がなされる案件もあります。

 

3 施設にも違いが…

 裁判所の建物は、裁判所ごとに雰囲気が異なります。東京地裁は威厳のある雰囲気、最近建設された裁判所(支部が多いです。)は割と親しみやすい雰囲気といった具合です。建物から受ける雰囲気に影響されてか、他の裁判所と比較して東京地裁の法廷(特に合議の法廷)は、重厚な裁判所らしい印象を受けます。

 特許庁の審判廷は、特許庁と経済産業省別館にあります。

 経済産業省別館の審判廷は普通の部屋ですが、特許庁にある審判廷は、紫を基調として大理石がふんだんに使われており、初めて見たときはその豪華さに圧倒されます。同じ印紙代でも、随分と施設に差があるものです。

(河部)

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.04.03更新

 弊所は、知的財産訴訟を中心とした業務を行っているものの、法律事務所ですから、全く異なった紛争事案も扱います。例えば、とある事件の訴状起案のために参照した書籍が、次の4冊。

 

① 『境界の理論と実務』(寶金敏明著)

1

 

② 『里道・水路・海浜』(寶金敏明著)

 2

  

③ 『解説森林法』(森林業基本政策研究会編著)

 3

 

④ 『鉱業法』(我妻榮、豊島隆著)

 4

 

 これまで聞いたことも経験したこともない複雑かつ難しいご要望の案件であったため、訴状を完成させるだけでも大変な時間と労力を費やしましたが、最終的にはご依頼者様のご要望にほぼ沿う形での解決ができました。

 山口での修習(裁判官、検察官、弁護士になるために必要な研修です。)時代、田んぼの境界の事件を検討した記憶がぼんやりとありますが、そのときは東京の知財事務所に入所する以上、こういう事件には修習が終わったら関わることはないだろうなぁと思っていました…が、どんな分野であっても、しっかり勉強しておかないといけないと実感しました。

(河部)

 

 

 

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.03.28更新

1 印紙のご相談

 前回のブログで、1号文書及び2号文書についてご説明しました。

 今回は、少々厄介な7号文書についてご説明します。

 

2 7号文書とは

 7号文書とは、「継続的取引の基本となる契約書」をいい、印紙税額は1通につき4000円です。

 国税庁のウェブページを見ると、「継続的取引の基本となる契約書」とは、「特定の相手方との間において継続的に生じる取引の基本となる契約書のうち次の文書」をいうとされています。

 実務では、全ての個別契約に適用される「基本契約」を先に締結し、その後詳細については個別契約で定めるという取引形態も多く見られます。その場合の「基本契約」に相当するものが「継続的取引の基本となる契約書」です。

 では、具体的にどのような場合に「継続的取引の基本となる契約書」となるのでしょうか。

まず、国税庁の上記ウェブページには、「ただし、その契約書に記載された契約期間が3ヶ月以内であり、かつ、更新の定めのないものは除かれます。」との記載があります。

 したがって、①基本契約といっても契約期間が3か月以内であるものや、②更新の定めがなく期間満了により直ちに終了する契約は、7号文書に該当しないこととなります。

 

 また、印紙税法施行令26条を見ると、以下の規定があります。

(継続的取引の基本となる契約書の範囲)

第二十六条 法別表第一第七号の定義の欄に規定する政令で定める契約書は、次に掲げる契約書とする。

一 特約店契約書その他名称のいかんを問わず、営業者(法別表第一第十七号の非課税

 物件の欄に規定する営業を行う者をいう。)の間において、売買、売買の委託、運

 、運送取扱い又は請負に関する二以上の取引を継続して行うため作成される契約書で

 、当該二以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、

 単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格を定める

 もの(電気又はガスの供給に関するものを除く。)

二 代理店契約書、業務委託契約書その他名称のいかんを問わず、売買に関する業務、

 金融機関の業務、保険募集の業務又は株式の発行若しくは名義書換えの事務を継続し

 て委託するため作成される契約書で、委託される業務又は事務の範囲又は対価の支払

 方法を定めるもの

三 銀行取引約定書その他名称のいかんを問わず、金融機関から信用の供与を受ける者

 と当該金融機関との間において、貸付け(手形割引及び当座貸越しを含む。)、支払

 承諾、外国為替その他の取引によつて生ずる当該金融機関に対する一切の債務の履行

 について包括的に履行方法その他の基本的事項を定める契約書

四 信用取引口座設定約諾書その他名称のいかんを問わず、金融商品取引法第二条第九

 項(定義)に規定する金融商品取引業者又は商品先物取引法(昭和二十五年法律第二

 百三十九号)第二条第二十三項(定義)に規定する商品先物取引業者とこれらの顧客

 との間において、有価証券又は商品の売買に関する二以上の取引(有価証券の売買に

 あつては信用取引又は発行日決済取引に限り、商品の売買にあつては商品市場におけ

 る取引(商品清算取引を除く。)に限る。)を継続して委託するため作成される契約

 書で、当該二以上の取引に共通して適用される取引条件のうち受渡しその他の決済方

 法、対価の支払方法又は債務不履行の場合の損害賠償の方法を定めるもの

五 保険特約書その他名称のいかんを問わず、損害保険会社と保険契約者との間におい

 て、二以上の保険契約を継続して行うため作成される契約書で、これらの保険契約に

 共通して適用される保険要件のうち保険の目的の種類、保険金額又は保険料率を定め

 るも

 

 ここで重要なのは、1号です。1号からは次の要件を読み取ることができます。

 ① 営業者間の取引であること

 ② 売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負に関する二以上の取引を継続して

  行うため作成される契約書であること

 ③ 二以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単

  価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格を定める

  ものであること

 

 以上の全ての要件を充たす場合には、7号文書に該当することとなります。

 

3 1、2号と7号文書の双方に該当する場合は?

 前回のブログでのご説明と以上の7号文書の意義から分かるとおり、1、2号文書と7号文書の双方に該当する文書が存在します。

 例えば、契約期間が1年で、更新規定がある運送委託基本契約書のうち、目的物の種類について定めているものは、1号文書にも7号文書にも該当します。

 1号文書であれば最も安くて200円、7号文書であれば4000円の印紙となり、かなりの差が生じます。

 この点、課税物件表の適用に関する通則3のイには、「第1号又は第2号に掲げる文書で契約金額のないものと第7号に掲げる文書とに該当する文書は、同号(第7号文書)に掲げる文書とする。」旨の規定があります。したがって、契約金額の記載があるものは1号又は2号文書、契約金額の記載がないものは7号文書に該当することとなります。

 上記の例でいえば、運送契約であっても、契約書自体から運送料が一義的に算出できないもの(単価は書いてあるけれども、それ以上の記載がない場合、月当たりの運送料は記載してあっても契約期間の記載がないものなど。)は、「契約金額のないもの」として、7号文書に該当することになります。

 

4 「業務委託契約書」の難しさ

 例えば、「業務委託基本契約書」などは最も多くみられる契約書ですが、前回でのご説明どおり、まずは、これが「請負」なのか「委任」なのか判断する必要があります。「請負」に該当すれば、次に2号文書か7号文書か判断することになりますが、「委任」に該当すれば、7号文書に該当するか判断することになります。実は、実務で最もよく用いられる「業務委託契約書」が印紙税法上は厄介だったりします。

 

5 次回

 次回は印紙の貼り間違いがあった場合や、印紙を貼り忘れてしまった場合の処理についてご説明します。

 

(神田)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.03.24更新

1 鉱業法の簡単な紹介

 随分前に我妻先生の基本書『鉱業法』をブログで取り上げたところ、実際に鉱業法のご相談をいくつかいただきました。そこで、簡単にではありますが、鉱業法の中身を取り上げてみたいと思います。

 

2 土地を所有していても鉱物は採掘できない

 鉱業法を勉強して一番驚く部分は、たとえ土地の所有権を有していても、鉱業権を有していなければ採掘が許されない(一部例外はあります。)どころか、刑事罰に処されかねない(鉱業法147条1項)点です。

 土地の所有権を有しているにもかかわらず、第三者が鉱業権設定登録を受けると、その土地の地下にある鉱物の権利は設定登録を受けた第三者のものになってしまうというのは、民法の世界とはかなり異なり、我々弁護士でも、きちんと鉱業法を学んでおかないと誤ったアドバイスをしてしまいかねません。

 もちろん、鉱業権を取得したからといって勝手に他人の土地に入って良いというわけではなく、採掘するためには、土地所有権の問題は避けて通れません。鉱業法も、土地所有権との関係について、調整規程を設けています(鉱業法101条~108条)。

 

3 鉱業権は「特許」

 鉱業権は、国に許可を求め、国が許可をすることによって独占的な権利が発生する、行政法学的な意味での「特許」です。ちなみに、弊所の得意分野である特許法の「特許権」も、国が許可することである範囲の技術に独占権を与えるものであり、当然と言えば当然ですが講学上の「特許」に当たります。

 土地を採掘する権利なので、土地を所有者から購入しなければならないように国から鉱業権を購入しなければならないようにも思えますが、特許権と同じで、鉱業権を購入する必要はなく、登録免許税を払うだけです。

 しかも、特許権と同じく、早いもの勝ちとなっています(特定鉱物を除きます。)。

 

4 鉱業権の実施

 鉱業法は、国の産業政策のための法律であり、国は鉱物を採掘して産業の発展に寄与してほしいと考えているわけですから、鉱業権の設定登録を受けるためには、その者が「鉱物の合理的な開発を適確に遂行するに足りる経理的基礎及び技術的能力を備えていること」(鉱業法40条1項1号)が要求され、また、鉱業権者は設定登録があった日から6か月以内に事業に着手しなければならない(鉱業法62条1項)とされています。また、事業に着手する際には、どのように採掘をするのかを示す施業案を提出し、経済産業大臣から認可を受けなければなりません(鉱業法63条2項)。

 

5 次回は平成24年改正

 以上、簡単に鉱業法の特徴的な部分を説明させていただきました。次回は、平成24年の鉱業法改正について触れてみたいと思います。

 

(河部)

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.03.23更新

1 オプトアウト届出開始

 以前のブログ改正個人情報保護法①改正個人情報保護法⑤)でもお伝えしましたが、平成29年5月30日施行の個人情報保護法の改正により、オプトアウト方式による個人情報の第三者提供を行うためには、事前に個人情報保護委員会への届出が必要となります。従前のとおり届出をせずにオプトアウト方式による個人情報の提供を行うと違法になってしまうため、十分注意が必要です。

 施行から直ちにオプトアウト手続を利用するため、平成29年3月1日から、事前届出の受付が開始されています。

 

2 具体的な届出方法

 個人情報保護委員会のウェブページによると、オプトアウト届出手続の方法としては、届出書とそのデータのCD-Rを個人情報保護委員会の事務局宛てへ送付する方法のようです(郵送のみの対応とのことです。)。

 忘れていると違法になってしまうため、是非事前届出をされることをお勧めいたします。

(神田)

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.03.21更新

1 特許についての講演

 ブログの更新が滞っている間に、特許権関係訴訟についての講演にも出席しました。

 

2 記載要件違反は認められにくい?

 今回の講演で印象に残ったのは、「記載要件違反の主張については、よほどのことがない限り、特許庁における判断を尊重する」旨の発言をなさっていたことです(受講から時間が経っており、細かなニュアンスは違っているかもしれません。)。

 

3 『パテント』の記事にも

 この点については、『パテント2016 Vol.69 No.3』の記事になっている清水節現知財高裁所長の講演録にも言及があります。

 すなわち、清水判事は、「なお、私自身は、いったん成立した特許について特許法36 条6 項1 号又は2 号の明確性、サポート要件違反により無効と判断することは、例外的と考えています。特に明確性要件について、査定系はともかく、無効審判においては、当業者に準ずる特許庁の審査官が不明確でないとし、多少の文言上の不一致や、技術的にやや不明なところがあっても一応理解できて特許にしたのだから、無効にしなければならないということは、例外的だろうと思います。重箱の隅をつつけば、明細書に不備な記載は見つかるかもしれませんが、そのようなことで、一度特許にしたものを無効にすることは余りよいことではないと思います。ただし、個人的な意見なので、必ずしも裁判官に共通するものではありません。実際にも36 条違反のみで無効の抗弁が成立した事例は余りないと思います。進歩性もない事例について、36条についても、この際判断しておこうという場合はありますが、やはり無効の抗弁は、進歩性、新規性で勝負するのが本筋だと思います。また、個人的には、36条違反を余りたくさん主張すると争点が拡散しますので、なるべく無駄な論点は増やさないでいただきたいと思います。知財事件に限らず、一般に民事系の裁判官は、根拠の薄い論点で争点を拡散させないでほしいと考えています。」として、個人的な意見であるとはしながらも明確に述べています。

 髙部判事も同趣旨の発言をなさっていることからすると、これが知財裁判官の基本的な考え方なのかもしれません。侵害訴訟では必ずと言っていいほど無効論主張をすることになりますが、この点も踏まえて、どこまで記載要件違反の主張をするか、よく検討する必要がありそうです。

(河部)

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.03.17更新

1 印紙のご相談

 弊所では、契約書チェックのご依頼を日常的にいただいております。その際、「この契約書の印紙はいくらですか?」というご相談をあわせていただくことも多いです。

 印紙を貼るべきか、貼るとしていくら貼るべきか、貼るべき契約書に貼らなかった場合にはどうなるのか、企業のご担当者様としては気になる部分かと思いますので、以下ご説明いたします。

 

 

2 印紙税とは

 印紙税とは、「文書」に課税される税金のことをいいます。

 そもそもなぜ文書を作成するのに税金を支払わなければならないのでしょうか。それは、当事者間において契約書などの「文書」を作成することにより、口頭で行われる場合と比較したとき、取引関係が明確化し法律関係が安定化するというメリットが得られるからと説明されてます。つまり、当事者関係を安定化・明確化するメリットを契約書等は持っており、印紙税は、当該メリットを享受する必要費と考えられているのです。 

 

 

3 印紙を貼る文書とは

 印紙を貼るべき「文書」は、印紙税法2条に規定があり、「別表第一の課税物件の欄に掲げる文書」とされています。

 そこで、「別表第一」を見ると、番号1から20までの文書が規定されています。これらの文書のいずれかに該当すれば、印紙を貼らなければなりません(番号1から20に対応して、1号文書、2号文書などと呼ばれます)。

 そして、番号1から20のいずれの文書に該当するかによって、納めるべき印紙税額が異なります。したがって、まずは、1号から20号のいずれ の文書に該当するのか(あるいはしないのか)を判断する必要があります。

 以下では、よくご相談を受ける、 1号文書、2号文書、7号文書についてご説明いたします。なお、この点について、国税庁のHPで丁寧に解説されていますので、一読されることをおすすめいたします。

 

 

4 1号文書とは

 1号文書とは、

 ① 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶、航空機及び営業の譲渡に関する契約書

 ② 地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書

 ③ 消費貸借に関する契約書

 ④ 運送に関する契約書

 をいうとされています(印紙税法別表1の1)。

 ①は、不動産売買契約書、土地建物売買契約書、不動産交換契約書、不動産売渡証書などです。したがって、動産売買契約書については、7号文書に該当する場合を除き、印紙は不要です。

 ②は、土地賃貸借契約書、土地賃料変更契約書などです。

 ③は、金銭借用証書、金銭消費貸借契約書などです。

 ④は、運送契約書、貨物運送引受書、用船契約書などです。

 以上の1号文書についてはいずれに該当するかは比較的明確ですね。

 

 

5 2号文書とは 

 (1) 請負とは

 2号文書とは、請負に関する契約書をいいます。

「請負」とは、民法上、「仕事の完成に対し報酬を支払う契約」をいいます。

 したがって、請負とは「仕事の完成」を目指すものです。つまり、仕事それ自体とは別に仕事の完成を考え、それと報酬との交換を考えるのが、請負ということになります。

 典型的な例でいえば、ビルの建築を依頼する場合です。これは、ビルの建築作業をするという「仕事」をすればよいというわけではなく、ビルの「完成」を目指さなければならないという意味で典型的な請負契約です。

 他方で、医者による診療行為は請負ではありません。それは、医者の診察が患者の病気を完治させるという「仕事の完成」を目指していないからです。

 

 

 (2) 業務委託契約書との相違

 ところで、実務で用いられるよく契約書に「業務委託契約書」というものがあります。実務担当者の方は、「業務委託契約書」≠「請負に関する契約書」として、印紙が不要と誤解されているがいらっしゃいます。

 しかしながら、印紙を貼付する必要があるか否かは、契約書のタイトルではなく、内容で判断されます。したがって、業務委託契約が「請負に関する契約書」に該当するか否かは、しっかりその内容を検討する必要があります。

 ここで、上記の請負の意義からすれば、委託する「業務」が仕事をすることのみならず、仕事の「完成」を目指すものであれば、印紙を貼る必要があります。

 この点の判断は微妙なことが多いので、事前に専門家に相談されることをおすすめします。 

 なお、別表2には、2号文書の例として、「工事請負契約書、工事注文請書、物品加工注文請書、広告契約書、映画俳優専属契約書、請負金額変更契約書など」が挙げられています。 

 

 

6 次回 

 次回は、7号文書の意義や7号文書と1号・2号文書の相違について説明いたします。

 

(神田)

 

 

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

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