2017.03.28更新

1 印紙のご相談

 前回のブログで、1号文書及び2号文書についてご説明しました。

 今回は、少々厄介な7号文書についてご説明します。

 

2 7号文書とは

 7号文書とは、「継続的取引の基本となる契約書」をいい、印紙税額は1通につき4000円です。

 国税庁のウェブページを見ると、「継続的取引の基本となる契約書」とは、「特定の相手方との間において継続的に生じる取引の基本となる契約書のうち次の文書」をいうとされています。

 実務では、全ての個別契約に適用される「基本契約」を先に締結し、その後詳細については個別契約で定めるという取引形態も多く見られます。その場合の「基本契約」に相当するものが「継続的取引の基本となる契約書」です。

 では、具体的にどのような場合に「継続的取引の基本となる契約書」となるのでしょうか。

まず、国税庁の上記ウェブページには、「ただし、その契約書に記載された契約期間が3ヶ月以内であり、かつ、更新の定めのないものは除かれます。」との記載があります。

 したがって、①基本契約といっても契約期間が3か月以内であるものや、②更新の定めがなく期間満了により直ちに終了する契約は、7号文書に該当しないこととなります。

 

 また、印紙税法施行令26条を見ると、以下の規定があります。

(継続的取引の基本となる契約書の範囲)

第二十六条 法別表第一第七号の定義の欄に規定する政令で定める契約書は、次に掲げる契約書とする。

一 特約店契約書その他名称のいかんを問わず、営業者(法別表第一第十七号の非課税

 物件の欄に規定する営業を行う者をいう。)の間において、売買、売買の委託、運

 、運送取扱い又は請負に関する二以上の取引を継続して行うため作成される契約書で

 、当該二以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、

 単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格を定める

 もの(電気又はガスの供給に関するものを除く。)

二 代理店契約書、業務委託契約書その他名称のいかんを問わず、売買に関する業務、

 金融機関の業務、保険募集の業務又は株式の発行若しくは名義書換えの事務を継続し

 て委託するため作成される契約書で、委託される業務又は事務の範囲又は対価の支払

 方法を定めるもの

三 銀行取引約定書その他名称のいかんを問わず、金融機関から信用の供与を受ける者

 と当該金融機関との間において、貸付け(手形割引及び当座貸越しを含む。)、支払

 承諾、外国為替その他の取引によつて生ずる当該金融機関に対する一切の債務の履行

 について包括的に履行方法その他の基本的事項を定める契約書

四 信用取引口座設定約諾書その他名称のいかんを問わず、金融商品取引法第二条第九

 項(定義)に規定する金融商品取引業者又は商品先物取引法(昭和二十五年法律第二

 百三十九号)第二条第二十三項(定義)に規定する商品先物取引業者とこれらの顧客

 との間において、有価証券又は商品の売買に関する二以上の取引(有価証券の売買に

 あつては信用取引又は発行日決済取引に限り、商品の売買にあつては商品市場におけ

 る取引(商品清算取引を除く。)に限る。)を継続して委託するため作成される契約

 書で、当該二以上の取引に共通して適用される取引条件のうち受渡しその他の決済方

 法、対価の支払方法又は債務不履行の場合の損害賠償の方法を定めるもの

五 保険特約書その他名称のいかんを問わず、損害保険会社と保険契約者との間におい

 て、二以上の保険契約を継続して行うため作成される契約書で、これらの保険契約に

 共通して適用される保険要件のうち保険の目的の種類、保険金額又は保険料率を定め

 るも

 

 ここで重要なのは、1号です。1号からは次の要件を読み取ることができます。

 ① 営業者間の取引であること

 ② 売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負に関する二以上の取引を継続して

  行うため作成される契約書であること

 ③ 二以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単

  価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格を定める

  ものであること

 

 以上の全ての要件を充たす場合には、7号文書に該当することとなります。

 

3 1、2号と7号文書の双方に該当する場合は?

 前回のブログでのご説明と以上の7号文書の意義から分かるとおり、1、2号文書と7号文書の双方に該当する文書が存在します。

 例えば、契約期間が1年で、更新規定がある運送委託基本契約書のうち、目的物の種類について定めているものは、1号文書にも7号文書にも該当します。

 1号文書であれば最も安くて200円、7号文書であれば4000円の印紙となり、かなりの差が生じます。

 この点、課税物件表の適用に関する通則3のイには、「第1号又は第2号に掲げる文書で契約金額のないものと第7号に掲げる文書とに該当する文書は、同号(第7号文書)に掲げる文書とする。」旨の規定があります。したがって、契約金額の記載があるものは1号又は2号文書、契約金額の記載がないものは7号文書に該当することとなります。

 上記の例でいえば、運送契約であっても、契約書自体から運送料が一義的に算出できないもの(単価は書いてあるけれども、それ以上の記載がない場合、月当たりの運送料は記載してあっても契約期間の記載がないものなど。)は、「契約金額のないもの」として、7号文書に該当することになります。

 

4 「業務委託契約書」の難しさ

 例えば、「業務委託基本契約書」などは最も多くみられる契約書ですが、前回でのご説明どおり、まずは、これが「請負」なのか「委任」なのか判断する必要があります。「請負」に該当すれば、次に2号文書か7号文書か判断することになりますが、「委任」に該当すれば、7号文書に該当するか判断することになります。実は、実務で最もよく用いられる「業務委託契約書」が印紙税法上は厄介だったりします。

 

5 次回

 次回は印紙の貼り間違いがあった場合や、印紙を貼り忘れてしまった場合の処理についてご説明します。

 

(神田)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.03.24更新

1 鉱業法の簡単な紹介

 随分前に我妻先生の基本書『鉱業法』をブログで取り上げたところ、実際に鉱業法のご相談をいくつかいただきました。そこで、簡単にではありますが、鉱業法の中身を取り上げてみたいと思います。

 

2 土地を所有していても鉱物は採掘できない

 鉱業法を勉強して一番驚く部分は、たとえ土地の所有権を有していても、鉱業権を有していなければ採掘が許されない(一部例外はあります。)どころか、刑事罰に処されかねない(鉱業法147条1項)点です。

 土地の所有権を有しているにもかかわらず、第三者が鉱業権設定登録を受けると、その土地の地下にある鉱物の権利は設定登録を受けた第三者のものになってしまうというのは、民法の世界とはかなり異なり、我々弁護士でも、きちんと鉱業法を学んでおかないと誤ったアドバイスをしてしまいかねません。

 もちろん、鉱業権を取得したからといって勝手に他人の土地に入って良いというわけではなく、採掘するためには、土地所有権の問題は避けて通れません。鉱業法も、土地所有権との関係について、調整規程を設けています(鉱業法101条~108条)。

 

3 鉱業権は「特許」

 鉱業権は、国に許可を求め、国が許可をすることによって独占的な権利が発生する、行政法学的な意味での「特許」です。ちなみに、弊所の得意分野である特許法の「特許権」も、国が許可することである範囲の技術に独占権を与えるものであり、当然と言えば当然ですが講学上の「特許」に当たります。

 土地を採掘する権利なので、土地を所有者から購入しなければならないように国から鉱業権を購入しなければならないようにも思えますが、特許権と同じで、鉱業権を購入する必要はなく、登録免許税を払うだけです。

 しかも、特許権と同じく、早いもの勝ちとなっています(特定鉱物を除きます。)。

 

4 鉱業権の実施

 鉱業法は、国の産業政策のための法律であり、国は鉱物を採掘して産業の発展に寄与してほしいと考えているわけですから、鉱業権の設定登録を受けるためには、その者が「鉱物の合理的な開発を適確に遂行するに足りる経理的基礎及び技術的能力を備えていること」(鉱業法40条1項1号)が要求され、また、鉱業権者は設定登録があった日から6か月以内に事業に着手しなければならない(鉱業法62条1項)とされています。また、事業に着手する際には、どのように採掘をするのかを示す施業案を提出し、経済産業大臣から認可を受けなければなりません(鉱業法63条2項)。

 

5 次回は平成24年改正

 以上、簡単に鉱業法の特徴的な部分を説明させていただきました。次回は、平成24年の鉱業法改正について触れてみたいと思います。

 

(河部)

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.03.24更新

1 鉱業法の簡単な紹介

 随分前に我妻先生の基本書『鉱業法』をブログで取り上げたところ、実際に鉱業法のご相談をいくつかいただきました。そこで、簡単にではありますが、鉱業法の中身を取り上げてみたいと思います。

 

2 土地を所有していても鉱物は採掘できない

 鉱業法を勉強して一番驚く部分は、たとえ土地の所有権を有していても、鉱業権を有していなければ採掘が許されない(一部例外はあります。)どころか、刑事罰に処されかねない(鉱業法147条1項)点です。

 土地の所有権を有しているにもかかわらず、第三者が鉱業権設定登録を受けると、その土地の地下にある鉱物の権利は設定登録を受けた第三者のものになってしまうというのは、民法の世界とはかなり異なり、我々弁護士でも、きちんと鉱業法を学んでおかないと誤ったアドバイスをしてしまいかねません。

 もちろん、鉱業権を取得したからといって勝手に他人の土地に入って良いというわけではなく、採掘するためには、土地所有権の問題は避けて通れません。鉱業法も、土地所有権との関係について、調整規程を設けています(鉱業法101条~108条)。

 

3 鉱業権は「特許」

 鉱業権は、国に許可を求め、国が許可をすることによって独占的な権利が発生する、行政法学的な意味での「特許」です。ちなみに、弊所の得意分野である特許法の「特許権」も、国が許可することである範囲の技術に独占権を与えるものであり、当然と言えば当然ですが講学上の「特許」に当たります。

 土地を採掘する権利なので、土地を所有者から購入しなければならないように国から鉱業権を購入しなければならないようにも思えますが、特許権と同じで、鉱業権を購入する必要はなく、登録免許税を払うだけです。

 しかも、特許権と同じく、早いもの勝ちとなっています(特定鉱物を除きます。)。

 

4 鉱業権の実施

 鉱業法は、国の産業政策のための法律であり、国は鉱物を採掘して産業の発展に寄与してほしいと考えているわけですから、鉱業権の設定登録を受けるためには、その者が「鉱物の合理的な開発を適確に遂行するに足りる経理的基礎及び技術的能力を備えていること」(鉱業法40条1項1号)が要求され、また、鉱業権者は設定登録があった日から6か月以内に事業に着手しなければならない(鉱業法62条1項)とされています。また、事業に着手する際には、どのように採掘をするのかを示す施業案を提出し、経済産業大臣から認可を受けなければなりません(鉱業法63条2項)。

 

5 次回は平成24年改正

 以上、簡単に鉱業法の特徴的な部分を説明させていただきました。次回は、平成24年の鉱業法改正について触れてみたいと思います。

 

(河部)

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.03.23更新

1 オプトアウト届出開始

 以前のブログ改正個人情報保護法①改正個人情報保護法⑤)でもお伝えしましたが、平成29年5月30日施行の個人情報保護法の改正により、オプトアウト方式による個人情報の第三者提供を行うためには、事前に個人情報保護委員会への届出が必要となります。従前のとおり届出をせずにオプトアウト方式による個人情報の提供を行うと違法になってしまうため、十分注意が必要です。

 施行から直ちにオプトアウト手続を利用するため、平成29年3月1日から、事前届出の受付が開始されています。

 

2 具体的な届出方法

 個人情報保護委員会のウェブページによると、オプトアウト届出手続の方法としては、届出書とそのデータのCD-Rを個人情報保護委員会の事務局宛てへ送付する方法のようです(郵送のみの対応とのことです。)。

 忘れていると違法になってしまうため、是非事前届出をされることをお勧めいたします。

(神田)

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.03.21更新

1 特許についての講演

 ブログの更新が滞っている間に、特許権関係訴訟についての講演にも出席しました。

 

2 記載要件違反は認められにくい?

 今回の講演で印象に残ったのは、「記載要件違反の主張については、よほどのことがない限り、特許庁における判断を尊重する」旨の発言をなさっていたことです(受講から時間が経っており、細かなニュアンスは違っているかもしれません。)。

 

3 『パテント』の記事にも

 この点については、『パテント2016 Vol.69 No.3』の記事になっている清水節現知財高裁所長の講演録にも言及があります。

 すなわち、清水判事は、「なお、私自身は、いったん成立した特許について特許法36 条6 項1 号又は2 号の明確性、サポート要件違反により無効と判断することは、例外的と考えています。特に明確性要件について、査定系はともかく、無効審判においては、当業者に準ずる特許庁の審査官が不明確でないとし、多少の文言上の不一致や、技術的にやや不明なところがあっても一応理解できて特許にしたのだから、無効にしなければならないということは、例外的だろうと思います。重箱の隅をつつけば、明細書に不備な記載は見つかるかもしれませんが、そのようなことで、一度特許にしたものを無効にすることは余りよいことではないと思います。ただし、個人的な意見なので、必ずしも裁判官に共通するものではありません。実際にも36 条違反のみで無効の抗弁が成立した事例は余りないと思います。進歩性もない事例について、36条についても、この際判断しておこうという場合はありますが、やはり無効の抗弁は、進歩性、新規性で勝負するのが本筋だと思います。また、個人的には、36条違反を余りたくさん主張すると争点が拡散しますので、なるべく無駄な論点は増やさないでいただきたいと思います。知財事件に限らず、一般に民事系の裁判官は、根拠の薄い論点で争点を拡散させないでほしいと考えています。」として、個人的な意見であるとはしながらも明確に述べています。

 髙部判事も同趣旨の発言をなさっていることからすると、これが知財裁判官の基本的な考え方なのかもしれません。侵害訴訟では必ずと言っていいほど無効論主張をすることになりますが、この点も踏まえて、どこまで記載要件違反の主張をするか、よく検討する必要がありそうです。

(河部)

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.03.17更新

1 印紙のご相談

 弊所では、契約書チェックのご依頼を日常的にいただいております。その際、「この契約書の印紙はいくらですか?」というご相談をあわせていただくことも多いです。

 印紙を貼るべきか、貼るとしていくら貼るべきか、貼るべき契約書に貼らなかった場合にはどうなるのか、企業のご担当者様としては気になる部分かと思いますので、以下ご説明いたします。

 

 

2 印紙税とは

 印紙税とは、「文書」に課税される税金のことをいいます。

 そもそもなぜ文書を作成するのに税金を支払わなければならないのでしょうか。それは、当事者間において契約書などの「文書」を作成することにより、口頭で行われる場合と比較したとき、取引関係が明確化し法律関係が安定化するというメリットが得られるからと説明されてます。つまり、当事者関係を安定化・明確化するメリットを契約書等は持っており、印紙税は、当該メリットを享受する必要費と考えられているのです。 

 

 

3 印紙を貼る文書とは

 印紙を貼るべき「文書」は、印紙税法2条に規定があり、「別表第一の課税物件の欄に掲げる文書」とされています。

 そこで、「別表第一」を見ると、番号1から20までの文書が規定されています。これらの文書のいずれかに該当すれば、印紙を貼らなければなりません(番号1から20に対応して、1号文書、2号文書などと呼ばれます)。

 そして、番号1から20のいずれの文書に該当するかによって、納めるべき印紙税額が異なります。したがって、まずは、1号から20号のいずれ の文書に該当するのか(あるいはしないのか)を判断する必要があります。

 以下では、よくご相談を受ける、 1号文書、2号文書、7号文書についてご説明いたします。なお、この点について、国税庁のHPで丁寧に解説されていますので、一読されることをおすすめいたします。

 

 

4 1号文書とは

 1号文書とは、

 ① 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶、航空機及び営業の譲渡に関する契約書

 ② 地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書

 ③ 消費貸借に関する契約書

 ④ 運送に関する契約書

 をいうとされています(印紙税法別表1の1)。

 ①は、不動産売買契約書、土地建物売買契約書、不動産交換契約書、不動産売渡証書などです。したがって、動産売買契約書については、7号文書に該当する場合を除き、印紙は不要です。

 ②は、土地賃貸借契約書、土地賃料変更契約書などです。

 ③は、金銭借用証書、金銭消費貸借契約書などです。

 ④は、運送契約書、貨物運送引受書、用船契約書などです。

 以上の1号文書についてはいずれに該当するかは比較的明確ですね。

 

 

5 2号文書とは 

 (1) 請負とは

 2号文書とは、請負に関する契約書をいいます。

「請負」とは、民法上、「仕事の完成に対し報酬を支払う契約」をいいます。

 したがって、請負とは「仕事の完成」を目指すものです。つまり、仕事それ自体とは別に仕事の完成を考え、それと報酬との交換を考えるのが、請負ということになります。

 典型的な例でいえば、ビルの建築を依頼する場合です。これは、ビルの建築作業をするという「仕事」をすればよいというわけではなく、ビルの「完成」を目指さなければならないという意味で典型的な請負契約です。

 他方で、医者による診療行為は請負ではありません。それは、医者の診察が患者の病気を完治させるという「仕事の完成」を目指していないからです。

 

 

 (2) 業務委託契約書との相違

 ところで、実務で用いられるよく契約書に「業務委託契約書」というものがあります。実務担当者の方は、「業務委託契約書」≠「請負に関する契約書」として、印紙が不要と誤解されているがいらっしゃいます。

 しかしながら、印紙を貼付する必要があるか否かは、契約書のタイトルではなく、内容で判断されます。したがって、業務委託契約が「請負に関する契約書」に該当するか否かは、しっかりその内容を検討する必要があります。

 ここで、上記の請負の意義からすれば、委託する「業務」が仕事をすることのみならず、仕事の「完成」を目指すものであれば、印紙を貼る必要があります。

 この点の判断は微妙なことが多いので、事前に専門家に相談されることをおすすめします。 

 なお、別表2には、2号文書の例として、「工事請負契約書、工事注文請書、物品加工注文請書、広告契約書、映画俳優専属契約書、請負金額変更契約書など」が挙げられています。 

 

 

6 次回 

 次回は、7号文書の意義や7号文書と1号・2号文書の相違について説明いたします。

 

(神田)

 

 

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.03.16更新

1 弁理士と弁護士の感覚の違い

 だいぶ空いてしまいましたが、前回に引き続き、髙部判事の講演で感じた弁理士の先生と裁判所・弁護士の感覚の違いについて、ご紹介させていただきます。

 

2 登録例の証拠提出

 2つ目は、商標権についての審決取消訴訟で、当該審決取消訴訟で争われている商標とは関係のない別の商標が登録された(されなかった)例をたくさん提出して、登録のハードルが低い(高い)ことを示すことで、当該審決取消訴訟でも商標が登録されるべきである(されるべきではない)と主張することの是非についてです。

 髙部判事は、別の商標が登録された(されなかった)という判断自体が誤っている可能性がある(審判・審決取消訴訟でひっくり返される可能性がある)以上、あまり意味がなく、主張はあくまで当該商標についての具体的なものにした方が効果的であるという趣旨のことをおっしゃっていました。

 この点について、私自身は同じような感覚を持っていたのですが、質疑応答の時間には弁理士の方から突っ込んだ質問がなされており、登録されたものが登録されるべきか否かを判断する裁判所の感覚と、登録させることがお仕事の弁理士の先生の感覚がずれやすい部分だったのかなと思い、強く印象に残っています。

 意味がないということはないでしょうが、審決取消訴訟を戦う際には、こういった裁判所の感覚も踏まえて書面を作成する必要がありそうです。

 

(河部)

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2017.03.14更新

1 外観類似で使用差止め

 去年のことになりますが、日本経済新聞の朝刊に、「『コメダの外観』まねはダメ」という記事がありました。

 内容としては、株式会社コメダが運営するコメダ珈琲店の外観、内装及びメニュー表示等を、株式会社ミノスケの運営するマサキ珈琲中島本店がそのまま使用しているとして、株式会社コメダがその使用の差止めを求めた仮処分命令申立事件となっています。

 日経新聞に掲載された決定理由では、「あまりに多くの視覚的特徴が同一または類似している」、「提携など営業上の緊密な関係を混同させる可能性があり、店舗外観の使用はコメダの営業上の利益を侵害する恐れがある」とされています。

 ちなみに、コメダの店舗とマサキ珈琲の外観の対比は以下のとおりです。いかがでしょうか?

 

29.3.14 

出典:「仮処分命令の発令に関するお知らせ」

 

2 記録閲覧

 仮処分決定自体は公開されていないため、その内容を知ることはできませんが、上記の「仮処分命令の発令に関するお知らせ」では、本案訴訟も提起されているという記載がありましたので、本案訴訟に係る記録を閲覧しに行きました。

 

3 事件の背景

 当事者の主張によると、もともと、マサキ珈琲は、コメダ珈琲に対して、フランチャイズ契約の申込みをしていたのですが、コメダ珈琲は、同じ地域に他のフランチャイジーがいること等を理由として、申込みを断ったようです。

 そこで、マサキ珈琲が、フランチャイズ契約を締結することなく、コメダ珈琲と同じような外観、内装及びメニューを備えた店舗の営業を開始してしまったとのことです。

 

4 根拠は不正競争防止法

 記録によると、今回の訴訟では、不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)2条1項1号及び2号が根拠とされていました(一般不法行為に基づく損害賠償請求も追加主張されています。)。不競法2条1項1号と2号は、いずれも「商品等表示」と同一若しくは類似の商品等表示を使用する行為を不正競争とするものです。

 「商品等表示」とは、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」(不正競争防止法2条1項1号かっこ書)であり、商品の出所を示す表示(商品表示)と営業の主体を示す表示(営業表示)を合わせたものです。

 本件では、原告は、まず、店舗の外観を「商品等表示」と主張しました。過去には大阪地判平成19年7月3日判時2003号130頁(ごはんや食堂事件)が店舗外観を「商品等表示」に該当し得ることを認めていますが、本件ではどのような判断がされるのか、注目です。 

 また、より興味深いのは、原告が、店舗の内装や商品のメニューも「商品等表示」と主張しているところです。上記のとおり、商品等表示は商品の出所や営業主体を示すものである必要がありますが、喫茶店で出されているメニューも喫茶店の内装もある程度似通っていますから、そう簡単に「商品等表示」として認められないのではないかと考えられます

 名古屋出身の神田としては、コメダのシロノワールやブーツ型メロンジュース、ロンドマールなどの商品がどのように保護されるのか(あるいはされないのか)注目したいところです。

  

5 コメダ珈琲の店舗に共通する商品等表示の立証の難しさ

 コメダ珈琲の店舗は数多く存在しており、全てが完全に同じ構造ではなく、それぞれが異なった外観ですから、コメダ珈琲の商品等表示を認定するためには、それらに共通する外観等を認定する必要があります。

 そうすると、コメダ珈琲の外観等の特徴的な部分を抽出して、その特徴的部分が店舗全体で共通することを立証しなければなりません。 

 一般に不競法2条1項1号案件は周知性立証が難しいのですが、コメダ珈琲自体は有名ですから、今回のような案件では、商品等表示といえるかが勝負のカギとなりそうです。

  

6 損害論への移行

 調書を見ると、本件は、前回の期日で損害論へ移行したようです。

 損害論へ移行したということは、不競止法2条1項1号又は2号の充足性が認められたということを意味します。

 理由は明らかでありませんが、判決に至った場合には必ずチェックしようと思います。

(神田、平田)

  


 

1 ごはんや食堂事件において、大阪地裁は、「仮に店舗外観全体について周知営業表示性が認められたとしても、これを前提に店舗外観全体の類否を検討するに当たっては、単に、店舗外観を全体として見た場合の漠然とした印象、雰囲気や、当該店舗外観に関するコンセプトに似ている点があるというだけでは足りず、少なくとも需要者の目を惹く特徴的ないし主要な構成部分が同一であるか著しく類似しており、 その結果、飲食店の利用者たる需要者において、当該店舗の営業主体が同一であるとの誤認混同を生じさせる客観的なおそれがあることを要すると解すべきである。」としています。

 コメダのプレスリリースによると、仮処分においては、店舗建物自体の使用は禁止しているが、その余の申立てについては却下されていることから、店舗の内装や商品のメニューについては、商品等表示と認められなかったであろうと推測されます。

 

 

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

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