2018.04.16更新

1 背景 
 現地の優秀な技術者の確保、現地ニーズを把握した製品開発の必要性などから次の記事でも報道されているとおり、東南アジア各国の子会社で研究開発(R&D)が行われ、発明が生まれる環境になってきています。

 

 ・「日本電産、シンガポールにモーターの研究開発拠点」(日本経済新聞、2012年6月7日)

 ・「ベトナムで洗濯機工場を開所 パナソニック」(日本経済新聞、2013年3月20日)

 ・「ダイハツ、インドネシアに研究開発センター」(日本経済新聞、2011年5月30日)

 ・「トヨタ、タイで開発『自立』技術者1400人体制に」(日本経済新聞、2015年10月6日)

 

 もっとも、海外法務については現地に法務担当者がおらず現地法令や現地実務の把握が十分にできていない会社が多いのが現状でしょう。
 特段、職務発明規程や契約がなければ現地の法律がそのまま適用されることになり、従業員の退職後に使用者にとって予測困難な金額を請求されるリスクがあります。会社としては、会社に従業員発明が帰属するようにしたい、また、従業員への報奨金の支払いが必要な場合、適切な相場の金額としたいでしょう。
 職務発明への対応は、規程の整備や契約により事前にルールを取り決めておくことでリスクを軽減できる分野でもあります。

 

 

2 職務発明対応の視点

(1)会社への職務発明の帰属
 総論としていえば、東南アジアでも原則として「発明者」に発明が帰属するものの、使用者への発明の帰属を認める職務発明制度を有する国が大多数です。具体的には、使用者の設備やリソースを使用した場合に使用者帰属とする法制が比較的多く採用されています(もっとも、国によって異なるため個別に確認が必要です。)。
(2)報奨金の支払い
 会社に職務発明を帰属させる対価として一定の報奨金の支払い義務を課す発明報奨制度を有するかは国によってばらつきがあります。そもそも発明報奨制度がなく契約で比較的自由に制度設計できる国もあれば(シンガポール)、契約によって報奨請求権を排除できないと法律で明示している国もあります(タイ)。支払いの相場についても日本の基準に現地の物価を加味して検討しますが、これはなかなか難しい問題です。
 なお、日本のように会社が一方的に職務発明規程を定めることができる制度は例外的なため、従業員との合意(契約)が必要になるとご理解ください。
(3)整備の進め方
 整備の進め方としては日本の職務発明規程を英語にし、国に合わせて必要な修正を行いローカライズしていくことが多いです。

 

 

3 タイにおける職務発明対応
 具体例として、タイにおける対応を取り上げます。
(1)職務発明の要件
 タイ特許法11条は、次のとおり規定しています。なお、特許法と特許法に基づく省令(Ministerial Regulations)第24号(B.E. 2542、以下「省令」といいます。)の日本語訳は、特許庁「外国産業財産権制度情報」掲載の和訳に従っています。

 また、英訳もWIPOのウェブサイトに掲載されています。

 

タイ特許法11条

雇用契約又は一定業務の遂行を目的とする契約の下でなされた発明の特許を出願する権利は、その契約に特に定めがない限り使用者又は業務委託者に帰属するものとする。
第1段落の規定は、雇用契約上従業者が発明活動を行うことを義務付けられてはいないものの、雇用契約に基づき自由に利用することのできる手段、データ又は報告を使用して発明を行った場合にも適用するものとする。

 

(2)職務発明に伴う報酬請求権
 報酬請求権については、タイ特許法12条及び省令3条が規定しています。

 

タイ特許法12条

第11条第1段落に規定された状況において発明活動を奨励し従業者に公平を期するため、従業者の行った発明から使用者が利益を受ける場合は、かかる従業者は、通常の賃金の他に報酬を受ける権利を有するものとする。
第11条第2段落に規定された従業者たる発明者は、報酬を受ける権利を有するものとする。
かかる報酬を受ける権利は、契約規定によって排除することができない。
本条第1段落及び第2段落に基づく報酬の請求は、省令の規則及び省令に定める手続に従い長官に提出しなければならない。長官は、従業者の賃金、発明の重要性、当該発明から派生したか又は派生が見込まれる利益及び省令に規定する他の状況を斟酌して従業者に適当と思われる報酬額を定める権限を有するものとする。

 

省令3条

報酬の請求は、発明特許…の付与後にのみ行うことができ、またかかる特許…の付与を知った後1年以内に行わなければならない。従業者が特許…が付与されたことを知らなかったことについて正当な理由がある場合、従業者は、当該特許…の満了前にいつでも報酬を請求することができる。

 

省令8条によれば、特許法12条4項の報酬額を決定する際には、知的財産局長官は次の事項を考慮するものとされています。

 

①従業者の職務内容

②従業者が発明又は意匠を創作するために供した労力及び技能
③他の者が当該従業者と共同で発明又は意匠を創作するために供した労力及び技能、並

 びに共同発明者又は共同創作者ではない他の従業者が提供した助言その他の援助

④使用者が、発明又は意匠の実験、展開又は実施のための資源又はサービスを取得する

 にあたり財産、助言、施設、予備作業又は管理業務を提供することによって発明又は

 意匠の創作のために行った援助

⑤当該発明又は意匠の実施を他者に許諾すること(他者への特許の譲渡を含む。)によ

 って従業者が得たか又は得ることが見込まれる利益

⑥共同で発明を行ったか又は意匠を創作した従業者の総数

 

(3)ルール策定の留意点
 まず、契約によって従業員の報酬請求権を排除できないと明示されていますので、注意が必要です。
 また、タイ法弁護士から聞いたところによれば、従業員が知的財産局長官に報酬の算定を求める場合、1年以上の時間がかかるということです。そのため、会社が一定のルールに従った金額を支払ってもなお不満として従業員が長官への算定手続を行うリスクは一般的には低いといえます。
 支払いのタイミングは、特許登録後に従業員は報酬を請求することができるという法制になっています。そのため、日本の職務発明規程では、出願時にも支払うとされていればルールを修正し、登録後に支払うと規定します。
 その他、従業員が特許の付与を知ったときから1年以内に請求するという制度ですので、特許が登録された場合、会社から従業員に特許登録されたことを通知する、というルールにしておくべきでしょう。

 

 

4 リードカウンセルの役割
 海外の職務発明への対応は、複数国の子会社の現状をヒアリング、調査し、まとめて進めることが実務上多いと思います。しかし、このような案件について、日本の法務、知財担当者が各国の法律事務所に依頼して個別に対応するのは非常に手間と時間がかかります。
 弊所のようにこの分野で経験があるリードカウンセルが間に入ることで、窓口を一本化でき、日本語でのやりとりも可能となり、会社担当者の負担を大きく軽減することができます。また、日本語での補足説明、方針のアドバイスを提供することで、ポイントを踏まえて効率的に整備を進めることができます。

 

(弁護士 木村 剛大)

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

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