2016.12.22更新

1 改正個人情報保護法における個人情報

 前回、改正前の「個人情報」の定義を確認したので、本題の改正法の定義を見ていきます。

 この改正により、個人情報の定義がいわゆる1号型と2号型に分かれることとなりました。なお、1号型か2号型のいずれに該当するかにより、個人情報保護法上の取扱いに違いはありません。

 

 

2 1号型の個人情報

 1号型の「個人情報」とは、改正法2条1項1号に定義があり、

 

 当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等(文書、図画若しくは電磁的記録(電磁的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式をいう。次項第2号において同じ。)で作られる記録をいう。第18条2項において同じ。)に記載され、若しくは記録され、又は音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項(個人識別番号を除く。)をいう。以下同じ。)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)。

 

とされています。

 かっこ書が続いて非常に読みにくい文章となっていますが、途中のかっこ書きを除いて読むと、「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」となります。前回のブログでご紹介した改正前の個人情報の定義と同じです。

 そうすると、今回の改正で新設されたのは、「その他の記述等」に関する途中のかっこ書の部分となります。つまり、「文書、図画若しくは電磁的記録」なども「個人情報」に含まれるということを確認したのが、今回の改正の趣旨です。電磁的記録等が「個人情報」に含まれることは、改正前個人情報でも当然のことと考えられていたため、この点は実質的な改正ではありません。

 このように見ていくと、個人情報の不明確さの理由と考えられていた「(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」の部分は改正されていないことが分かります。結局、1号型の個人情報に該当するか否かは、改正前と変わらず、「事案による」ということです。今後、新設された個人情報保護委員会により明確な指針が示されることが期待されます。

 

 

3 2号型の個人情報

 2号型の個人情報とは、「個人識別符号が含まれるもの」(改正法2条1項2号)であり、「個人識別符号」については、改正法2条2項に以下のとおり定義されています。

 

 この法律において『個人識別符号』とは、次の各号のいずれかに該当する文字、番号、記号その他の符号のうち、政令で定めるものをいう。

一 特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、

 番号、記号その他の符号であって、当該特定の個人を識別することができるもの

二 個人に提供される役務の利用若しくは個人に販売される商品の購入に関し割り

 当てられ、又は個人に発行されるカードその他の書類に記載され、若しくは電磁

 的方式により記録された文字、番号、記号その他の符号であって、その利用者若

 しくは購入者又は発行を受ける者ごとに異なるものとなるように割り当てられ、

 又は記載され、若しくは記録されることにより、特定の利用者若しくは購入者又

 は発行を受ける者を識別することができるもの」

 

 上記のとおり、改正法2条2項には1号と2号がありますが、そもそも1号と2号の内容を具体化したものが「政令で定める」情報ですので、政令で定める情報に該当すれば、直ちに個人情報に該当することとなります。以下が「政令で定めるもの」になります。

 

 個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)第二条第二項の政令で定める文字、番号、記号その他の符号は、次に掲げるものとする。

一 次に掲げる身体の特徴のいずれかを電子計算機の用に供するために変換した文字、

 番号、記号その他の符号であって、特定の個人を識別するに足りるものとして個人

 情報保護委員会規則で定める基準に適合するもの

 イ 細胞から採取されたデオキシリボ核酸(別名DNA)を構成する塩基の配

 ロ 顔の骨格及び皮膚の色並びに目、鼻、口その他の顔の部位の位置及び形状に

  よって定まる容貌

 ハ 虹彩の表面の起伏により形成される線状の模様

 ニ 発声の際の声帯の振動、声門の開閉並びに声道の形状及びその変化

 ホ 歩行の際の姿勢及び両腕の動作、歩幅その他の歩行の態様

 ヘ 手のひら又は手の甲若しくは指の皮下の静脈の分岐及び端点によって定まる

  その静脈の形状

 ト 指紋又は掌紋

二 旅券法(昭和二十六年法律第二百六十七号)第六条第一項第一号の旅券の番

三 国民年金法(昭和三十四年法律第百四十一号)第十四条に規定する基礎年金番号

四 道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)第九十三条第一項第一号の免許証の番号

五 住民基本台帳法(昭和四十二年法律第八十一号)第七条第十三号に規定する住民票

 コード

六 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成

 二十五年法律第二十七号)第二条第五項に規定する個人番号

七 次に掲げる証明書にその発行を受ける者ごとに異なるものとなるように記載された

 個人情報保護委員会規則で定める文字、番号、記号その他の符号

 イ 国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)第九条第二項の被保険者証

 ロ 高齢者の医療の確保に関する法律(昭和五十七年法律第八十号)第五十四条

   第三項の被保険者証

 ハ 介護保険法(平成九年法律第百二十三号)第十二条第三項の被保険者証

八 その他前各号に準ずるものとして個人情報保護委員会規則で定める文字、番号、

 記号その他の符号」

 

 2号から7号までは非常に分かりやすいですね。パスポート番号や免許証番号、マイナンバーなどが個人情報に該当すると明確化されたことになります。

 しかし、前回のブログでご紹介した携帯電話番号などは入っておらず、これはやはり1号型の個人情報に該当するかという判断をしなければなりません。2号型「個人情報」は、個人情報保護への関心が高まっている昨今、さしあたって要保護性の高い情報のみ個人情報に該当するものと明確化したものといったところでしょうか。

(河部、神田)

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2016.12.16更新

1 個人情報とは

 改正個人情報保護法は、「個人情報」の定義をより明確にしています。では、そもそも現行法で「個人情報」とはどのようなものを指すとされているのでしょうか。現行法を理解すると、なぜ改正する必要があるのか理解できると思いますので、今回は現行法についてご説明し、次回、改正法でどのように「個人情報」の定義が変わったのかに触れたいと思います。

 

 

2 個人情報保護法における定義

 日常的に使われる「個人情報」という言葉ですが、個人情報保護法がこれを定義しています。

 その内容は、「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができるものを含む。)をいう。」(2条1項)というものです。

 以下、詳しく見ていきます。

 

 

3 「生存する個人に関する情報」

 「個人情報」に該当するためには、「生存する個人に関する情報」であることが必要です。

 亡くなった方、歴史上の人物の情報は、「個人情報」になりません。

 誤解される方が多いのが法人の情報です。「個人」の情報ですから、法人の情報は個人情報に含まれません。

 この点も誤解が多いのですが、個人情報に該当するか否かは、公開されているか否かを問いません。プライバシー=個人情報という理解から、公開されていない私的な情報を個人情報と考えている方も多いのですが、例えば、フェイスブックやブログ等で氏名や生年月日が公開されていたとしても、それらの情報が個人情報であることに変わりはありません。

 

 

4 「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」

 この点は理解が難しいのですが、その情報により個人を特定できるか否かを「個人情報」の要件とするものです。

 例示されている氏名や生年月日はこれにより特定の個人を特定することができるため、個人情報の最たるものです。また、声や指紋、筆跡等も、一人一人異なるという意味で、個人を特定できる「個人情報」に該当します。

 

 

5 「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができるもの」

 これは、その情報「単体」では個人を特定できなくとも、他の情報と容易に組み合わせられる状況では、個人を特定できる「個人情報」となりうることを規定したものです。

 具体的としては、よく携帯電話番号の例が挙げられます。携帯電話番号は、規則性のない数列であって、それだけでは誰の携帯電話番号か特定できません。しかし、事業者が携帯電話番号を氏名や住所と紐づけて管理していた場合、携帯電話番号と氏名や住所を照合すれば、特定の個人を特定できてしまいます。この場合、氏名や住所のみならず、「携帯電話番号」も個人情報になってしまうのです。その結果、「携帯電話番号」を本人の同意なく第三者に提供できません。

 

 

6 個人情報の不明確性

 以上のとおり、「個人情報」に該当するか否かは、その管理の状況等により変わります。

 これでは、事業者からすれば、どのような場合にどのような情報を「個人情報」として取り扱えばよいのか見通しが立たず、新しい事業を行うにあたっての障害となってしまいます。そこで、本改正で個人情報の定義を明確化することになりました(もっとも、実際に明確になっているかは要検討事項ですが・・・)。

 次回は、改正法の「個人情報」の定義に触れたいと思います。

(河部、神田)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2016.12.15更新

1 充足論と無効論は正反対の役割

 今回は、特許権侵害訴訟における充足論と無効論の使い方という、ちょっと実戦的な内容に触れてみたいと思います。

 特許権侵害訴訟において、充足論の主張と無効論の主張は、正反対の役割を果たすことになります。すなわち、

 ① 充足論の主張では、原告は被告商品や被告方法が権利の範囲内に入るように広い権利を主張し、逆に被告は被告商品や被告方法が権利の範囲内に入らないように狭い権利を主張するのに対し、

 ② 無効論の主張では、原告は無効にならないように狭い権利を主張し、逆に被告は無効になるように広い権利を主張する

という逆の方向性の主張をしなければなりません。

 

  代理人として双方の立場から主張を組み立てる場合、

 ① 原告であれば、被告の充足論・無効論の主張をどうかいくぐって一貫性のある論理を構築し、揚げ足を取られないように自らの主張を吟味すること、

 ② 被告であれば、原告の充足論での主張を利用して無効論で主張を展開し、また無効論での原告の主張を利用して充足論で自らの主張の補強をすること、

になります。

 被告の場合、たとえ特許を無効にするのは非常に難しいと考えていたとしても、無効論に対する反論で原告が口を滑らせる可能性を考え、無効論の主張を組み立てることもあります。

 

2 知財弁護士の腕の見せ所

 知財に関わる弁護士・弁理士であれば上記のようなことは当然理解しているはずですが、一般論としてはともかく、実際に充足論の主張と無効論の主張の矛盾を突いたり、充足論と無効論で首尾一貫した主張を構築したりすることは、簡単ではありません。知財弁護士の腕の見せ所であり、充足論を弁護士、無効論を弁理士が担当している場合には、充足論と無効論の連携が問われます。

 

3 無効資料の探し方にも影響する

 上記の事は、無効資料の探し方にも関わってきます。

 無効論主張は要件事実的にいえば抗弁であり、原則論としては、充足論における原告主張がすべて認められた場合にのみ意味を有するものです(実際の判決では、無効論だけ審理して充足か否かを問わずに棄却する場合もあります。)。したがって、無効論主張に用いる資料は、構成要件解釈について原告側が主張する広い権利範囲を前提に行うことになります。

 特に調査担当の方が訴訟を経験していない場合や調査会社に依頼する場合、この点は盲点になりがちなので、注意が必要です。

(河部)

 

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2016.12.14更新

 小林・弓削田法律事務所では、基本的に出願案件は特許庁対応の専門家である弁理士の先生にお任せしていますが、紛争案件を弁理士の先生と共同で受任することが多く、普段から一緒にお仕事をさせていただいています。

 

 弁理士の仕事を知ることはより良い連携を取るために有効でしょうし、来年1月からまた1名弁護士が増えて私にも少し余裕ができそうなので、この機会に弁理士実務修習を受けてみることにしました。

 

 申込みを済ませ、届いた教材がこちら↓

弁理士実務修習を受けてみた

 

 専念義務があり1年間の司法修習より量が多い気がします・・・

 年末は、実務修習の課題に追われることになりそうです。

(河部)

 

 

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2016.12.12更新

1 要配慮個人情報とは

 前回の記事で、「要配慮個人情報」はオプトアウト方式による第三者提供が認められないことに触れました。そこで、今回は、「要配慮個人情報」とは何かについてご説明します。

 「要配慮個人情報」とは、「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」(改正法2条3項)と定義され、今回の改正で新設されたものです。

 

 

2 どのような情報が要配慮個人情報となるか

 「病歴」や「犯罪の経歴」は分かりやすいですね。このような情報は、勝手に取得されたくないし、特に何も言わなくても第三者提供されたくないと考える方が一般の感覚かなと思います。

 なお、「政令で定める記述等」については、施行令2条にて定義がされており、その内容は以下のとおりです。

 

「(1)要配慮個人情報に加えるものは、次に掲げる事項のいずれかを内容とする記述等を含む個人情報とする。

(ア)身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の個人情 報保護委員会規則で定める心身の機能の障害があること。

(イ)本人に対して医師その他医療に関連する職務に従事する者により行われた健康診断その他の検査の結果。

(ウ)健康診断その他の検査の結果に基づき、又は疾病、負傷その他の心身の変化を理由として、本人に対して医師その他医療に関連する職務に従事する者により心身の状態の改善のための指導又は診療若しくは調剤が行われたこと。

(エ)本人を被疑者又は被告人として、逮捕、捜索、差押え、勾留、公訴の提起その他の刑事事件に関する手続が行われたこと。

(オ)本人を非行少年又はその疑いのある者として、調査、観護の措置、審判、保護処分その他の少年の保護事件に関する手続が行われたこと。」

 

 

3 取得に本人の同意が必要

 要配慮個人情報については、一定の例外を除き、その取得にあたり「あらかじめ」本人の同意が必要です(改正法17条2項柱書)。通常の個人情報については、本人に対して利用目的を特定した上で通知すれば、本人の同意を得ることなく取得できるのに比して、厳格な手続となっています。

      

 

4 オプトアウト方式は認められない

 前回の記事でも触れましたが、要配慮個人情報については、オプトアウト方式による第三者提供は許容されていません(改正法23条2項かっこ書)。これには例外はありません。

 オプトアウト方式により個人情報を第三者に提供する事業者の方は、その中に要配慮個人情報が含まれていないか、十分確認することが必要です。

 

 

5 違反した場合

 上記の法令に違反した場合には、個人情報保護委員会からの勧告・命令の対象となります(改正法42条)。つまり、違法な取得やオプトアウトについてはまずは勧告、それでもやめないと命令がなされ、命令に違反した場合には、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されます(改正法84条)。なお、法人については、違反した者(人)はもちろん、法人に対しても罰金刑が科されます(改正法87条)。

 また、本人は、事業者に対し、利用停止等を請求できます(改正法30条1項、3項)。

 

 

6 次回は「個人情報」の定義

 次回は、「個人情報」の定義がより明確化されたことに触れたいと思います。

 

(河部、神田)

 

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2016.12.05更新

1 勉強会で

 ずいぶんと前ですが、第二東京弁護士会の会派五月会の勉強会に参加してきました。その中で一番印象に残ったのが、オプトアウト方式に関する個人情報保護法の改正です。

 

2 オプトアウトに関する規制の強化

 現行個人情報保護法においては、個人情報を第三者に提供するためには、原則として本人の同意が必要(23条1項)としつつ、一定の要件を備える場合には同意を得ずに第三者提供ができることになっています(23条2項、いわゆる「オプトアウト」方式)。

ところが、今回の改正で、新たに新設される個人情報保護委員会に対して、オプトアウトの方法で第三者提供することを届け出ておかねばならない(改正23条2項)ということになりました(例外はあります。)。

 

3 放っておくと違法状態になる!?

 つまり、現時点でオプトアウト方式を採用している企業が、個人情報保護法改正前に何にもしないでいると、改正法が施行された時点で、個人情報保護法違反の状態になってしまうということです。知らないとコンプライアンス意識の低い企業の烙印を押されてしまうかもしれません。

 

4 忘れてしまわないために・・・

 施行後に届け出ると、施行前からオプトアウト方式を採用していた企業はわずかな時間とはいえ違法状態になるわけですし、法務部を置いていない企業では、日々の業務に追われて届出を忘れてしまって違法状態が続いてしまうなんてこともありそうです。

 改正法もそこはきちんと配慮しており、改正法の施行前に、一定事項について本人に通知するとともに、個人情報保護委員会に届け出れば、施行後に届け出たことになります(附則2条)。改正前に届け出てしまうのが得策ですね。

 

5 チェックしておく必要性

 オプトアウト方式についての改正を知った勉強会の時点では、個人情報保護委員会すら設置されていませんでしたが、最近調べたところ、現在は設置されているようです。もっとも、今のところ届出はできません。いつ届出ができるようになるのか、しばらくはチェックしておく必要がありそうです。

  ちなみに、改正法では「要配慮個人情報」というのが定義されており、これについてはオプトアウト方式自体認められませんので、注意が必要です。

 

(河部、神田)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2016.12.01更新

1 ブログ再開

 前回更新から随分と時間が空いてしまいました。準備書面なら何十頁でもそう悩まないのですが、何を書けばいいのか決まっている準備書面と違って、こういった文章は何を書こうかから始まってなかなか筆が進まず・・・しかし、依頼者の方から読んでいると声をかけていただいたこともあり、また、神田弁護士も手伝ってくれるそうなので、できる範囲で頑張りたいと思います。

 

2 口頭弁論の活性化

 さて、半年ほど前に技術説明会の公開について言及をさせていただきましたが、今回も似たテーマ、「口頭弁論の活性化」についてです。

 先日、知的財産高等裁判所第4部の事件で、「口頭弁論の活性化」のために、口頭弁論期日において技術の内容について口頭でプレゼンテーションをするという機会がありました。

 普段、法廷には次の期日の関係者くらいしかいないのですが、当日は何故か大勢の学生さんが見学にいらっしゃっていて、かなり緊張し、冷や汗をかいてしまいました。何度も練習をしておいて本当によかったです^^;

 

3 今後の知財弁護士・弁理士に問われるプレゼン能力

 現在のところ、この「口頭弁論の活性化」は知的財産高等裁判所第4部でしか行われていません。しかし、審決取消訴訟では技術説明会を求められることも多いですし、知財高裁の別の部では、技術説明会より簡略化したプレゼンテーションを弁論準備手続期日ごとに求められることもあります。

 私自身も技術説明会等を行うたびに痛感しますが、こういったプレゼンテーションでは、単に原稿を棒読みするだけでは全然内容が伝わりません。また、不意の質問にも即座に回答できるだけの技術に対する理解が必要ですが、回答の内容が専門的すぎては、必ずしも技術の専門家ではない裁判官には伝わりません。技術に対する理解だけでなく、技術をかみ砕いて説明する能力も必要です。

 証人尋問の少ない知財訴訟は書面のやり取りだけで淡々と進むことが多かったですが、今後は、技術説明会に限らずプレゼンテーションの機会が増加し、知財訴訟を担当する代理人弁護士・弁理士にとっては、技術を深く理解して口頭で分かりやすく説明するプレゼンテーション技術が問われる時代になっていくのかもしれません。

(河部)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2016.09.08更新

1 リンクは著作権侵害?:EU司法裁判所の判断についてのニュース

 先日、知財関係のニュースとして、「EU司法裁判所、無断リンクは著作権侵害!」といった内容の見出しが躍りました。

 中山信弘先生の『著作権法』が「リンク元では複製が行われているわけではないので、基本的には複製権侵害の問題は生じない。」とされているとおり、我々としては、「リンクを張るだけなら大丈夫。」というアドバイスをすることもあるので、見出しを見た瞬間はヒヤリとしました。

 

   

2 EU司法裁判所での判断

 いくら日本の裁判所の判断ではないとはいえ、当然気になります。

 EU司法裁判所の平成28年9月8日の判断は、

「著作権者に無断で公開された作品にリンクを張る行為は、原則として、公衆送信権侵害に該当しないが、例外的に、

 ① リンクを張る者が金銭的利益を得ることを目的とし、

 ② その者に違法で公開されたことの認識があった場合

 には、公衆送信権侵害に該当する。」

というもののようです。

 また、上記①のような場合には、リンクを張る者において、適法に公開された作品か否か調査する義務を負うべきであるとされているようであり、この点も注目です。

 

 

3 見出し程のインパクトは…

 見出しだけ見たときはかなりのインパクトを受けましたが、①と②の要件を両方満たすのはかなり悪質な場合ですから、今回のEU司法裁判所の判断は、普段に活動をなさっている企業様のご相談には影響しなそうです。

 

 

4 日本ではどう判断されそうか?

 今後同様の案件について、日本の裁判所がEU司法裁判所のように著作権侵害という法的な構成を採用するかは分かりませんが、著作権侵害としなくても、著作権侵害行為の幇助として、民法719条2項を適用することはありそうです。

 この点について、大阪地裁平成25年6月20日(平成23年(ワ)第15245号)では、動画サイト「ニコニコ動画」に違法にアップロードされた動画の引用タグ又はURLをリンクとして張った行為について、著作権侵害の幇助による不法行為が成立するか否かについて、以下のとおり判示しています。

 

 「しかし、ニコニコ動画』にアップロードされていた本件動画は、著作権者の明示又は黙示の許諾なしにアップロードされていることが、その内容や体裁上明らかではない著作物であり、少なくとも、このような著作物にリンクを貼ることが直ちに違法になるとは言い難い。そして、被告は、前記判断の基礎となる事実記載のとおり、本件ウェブサイト上で本件動画を視聴可能としたことにつき、原告から抗議を受けた時点、すなわち、『ニコニコ動画』への本件動画のアップロードが著作権者である原告の許諾なしに行われたことを認識し得た時点で直ちに本件動画へのリンクを削除している。このような事情に照らせば、被告が本件ウェブサイト上で本件動画へリンクを貼ったことは、原告の著作権を侵害するものとはいえないし、第三者による著作権侵害につき、これを違法に幇助したものでもなく、故意又は過失があったともいえないから、不法行為は成立しない。」

 

 判決は、不法行為が成立しない理由について、

① ニコニコ動画にアップロードされた動画について、著作権者の同意を得ているか否か、その体裁からは明らかでないこと、

② 動画が著作権者の許諾なしにアップロードされていたことを認識した時点で、直ちにリンクを削除していること

という2つの理由を付しています。

EU司法裁判所の2つの要件を裏返したような判断ですね。逆にいえば、

① 違法アップロードされた動画であることが、動画の体裁から直ちに認識できる場合や、

② 違法アップロードされた動画であることを認識した後でも、リンクを削除しなかった場合には、

不法行為による損害賠償責任を負う可能性があるということとなります。

 

(河部、神田)

 

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2016.08.15更新

1 小林・弓削田法律事務所の業務内容

 引き続き、第70期弁護士採用に向けた小林・弓削田法律事務所のご紹介をしたいと思います。今回は、知財訴訟以外の業務分野についてです。

 

2 知財訴訟以外の業務

 当然といえば当然ですが、弊所も、知財訴訟だけを扱っているわけではありません(知財訴訟の件数からいえば、知財訴訟だけやっている事務所は存在しないのではないでしょうか?)。知財業務の担当として顧問契約を締結していただいている企業様以外の企業様からは、知財案件以外のご相談をいただくことの方が多いですし、その分野も多岐に亘ります。

 数でいうと契約書チェック業務が一番多く、その内容も通常の売買契約から、新サービスの利用規約、M&A案件、投資案件など様々です。

 また、訴訟案件でも、意外と種類があります。私が弊所に入所してから担当した事件(裁判所等で事件番号がついているもの)から、知財関連の事件を除いたものを、ざっと並べてみます(重複するものは省いています。)。

 

 債務不履行に基づく損害賠償請求事件

 売掛金請求事件(争点は表見代理)

 損害賠償請求事件(交通事故)

 貸金返還請求事件

 賃貸借契約終了に基づく原状回復等請求事件

 準委任契約に基づく報酬請求事件

 慰謝料請求事件(男女問題)

 境界確定等請求事件(鉱業法・森林法も関連)

 建物収去土地明渡請求事件

 謝罪広告等請求事件(名誉棄損)

 損害賠償請求事件(建築紛争)

 独禁法に基づく差止請求訴訟

 合併無効確認請求事件

 会社法423条1項に基づく損害賠償請求事件

 会社法429条1項に基づく損害賠償請求事件

 労働審判申立事件

 面談強要禁止の仮処分命令申立事件

 債権仮差押命令申立事件

 不動産仮差押命令申立事件

 離婚請求調停事件

 婚姻費用請求審判事件

 各種機関でのADR数件

 

 意外と、色々な経験が積めているのではないでしょうか?裁判上の手続に至らなかった交渉案件は記載していないので、実際にはもう少し幅広くなります。

 既にご説明したとおり、弊所の業務のかなりの部分は知財案件で占められており、他の法律事務所と比較すれば、知財以外の案件の数は少ないかもしれません。

 しかし、小林弁護士・弓削田弁護士の出身事務所である田宮合同法律事務所では、小林弁護士・弓削田弁護士は、不動産案件から刑事事件に至るまで、多種多様な事件を数多くの経験を積んでいます。弊所では基本的に必ずパートナー弁護士と一緒に仕事をしますから、知財業務以外の分野であっても、アソシエイト弁護士として、経験豊富な弁護士のやり方を見ながらOJTを積むことができます。

 また、弊所は現時点で弁護士数5名の小規模な事務所です。全員が普段から顔を合わせており、その性格や業務分野についての興味も知っていますから、手を挙げさえすれば、自分のやりたい業務を担当できる可能性は非常に高いです。実際、今年入所の神田弁護士も、ゲーム系の企業様の案件を担当したいという希望を出したため、パートナー弁護士はそういった案件について彼に声をかけることが多くなりました

 もちろん知財に興味がない方が弊所に入所するのはお勧めしませんが、弊所が受任することがない特殊な分野(例えばファイナンスがやりたくて弊所に入所するというのは、間違っています。)以外であれば、知財以外の分野に興味があっても経験できる可能性は十分にあります。                                   (河部)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

2016.08.12更新

1 小林・弓削田法律事務所の業務内容③

 第70期弁護士採用に向けた弊所の業務内容説明も、3回目を迎えました。弊所が採用活動にどれだけ力を入れているか、優秀な人材を採用したいという意欲を、感じ取っていただけると幸いです。

 今回は、知財訴訟を特許訴訟とそれ以外の分野に分けて、それぞれの特徴をご説明したいと思います。

 

2 特許訴訟の特徴と特許訴訟に向いている人

 ⑴ 特許訴訟の特徴

 一般民事訴訟と比較した場合の特許訴訟の特徴は、①技術に対する理解 が要求されること、②毎回違う技術に触れること、③訴訟記録が膨大な量に及ぶこと、でしょう。

 

 ⑵ 各特徴と特許訴訟に向いている人

 ア 技術に対する理解

 ①の技術に対する理解が要求されることは、特に法学部などの文系出身の方にとっては、知財弁護士を目指すか目指さないかを左右しかねない事項だと思います。

 この点について、私個人の意見としては、一定程度の理解力と根気さえあれば、文系出身者でも全く問題ないと思っています。私自身、理系科目(特に数学と物理)が苦手で私立文系大学に進んだというタイプですが、今のところ特に支障なく仕事ができています。

 問題を与えられて解答を出すという学校や入試の試験問題とは異なり、特許訴訟での我々に求められる役割は、既に答え(依頼者の望む訴訟結果)は決まっていて、それに裁判官の心証を近づけていくために、如何に論理を通し、分かりやすく説明するかということですから、答えを知った上でそれを分かりやすく表現できさえすればよく、問題を解かなければならない学校や入試の試験の得手不得手とは必ずしも関係がないのだと思います。

 ここから先は、私個人の意見です。

 準備書面を読む知財部・知財高裁の裁判官も、その多くは文系学部出身です。この点からすれば、理系出身で技術に対し理解がある弁護士よりも、文系出身で技術について素人の弁護士の方が、技術の専門家ではない裁判官にとって「分からないところが分かる」という意味では優れているとさえ言えると考えています。

ただし、上記の見解は、「相応の努力ができれば」という前提条件があります。技術分野によっては、「これは本当に日本語で書かれているのか?」と思うような明細書を何度も読み返し、依頼者の方と長時間の議論を重ね、休日も返上で当該分野の入門書を大量に読み漁るといった作業が必要です。こういった努力を「割に合わないな」と考える方は、弊所のような知財訴訟事務所には向きません。

なお、理系出身の方であっても、我が国の特許訴訟の数の少なさからいえば、自分の専門分野とは全く異なる分野の訴訟を受け持つことも多いでしょうから、文系出身の方と同じような状況に置かれることは多いと思います。この点は、機械分野・化学分野といった感じで、技術分野ごとにある程度自らの担当する技術分野を細分化できることも多い弁理士の先生のお仕事と違う部分です。

 

 イ 毎回違う技術分野に触れること

 この技術分野が毎回異なるという点は、「専門性が高まらない」とか「業務効率が上がらない」という風に否定的に捉える方もいれば、「好奇心をくすぐられる」「何度やっても飽きない」と肯定的に捉える人もいるでしょう。

 前者の方は、別の業務分野の方が向いているでしょうし、弊所に入所しても辛い思いをするだけでしょう。逆に、後者の方にとっては、弊所はいい事務所だと思います。

 

 ウ 訴訟記録の膨大さ

 訴訟記録の膨大さも、特許訴訟の特徴の一つです。侵害訴訟であれば、特許公報だけでなく、特許査定までに提出される意見書などの包袋書類にも目を通さなければなりませんし、無効論では大量の公開特許公報に目を通さなければなりません。

 こういった資料を、「どこかにこちらに有利となる記載はないか?」という視点でくまなく読み込めるだけの仕事に対する真摯さが、特許訴訟には要求されます。

 

3 特許以外の知財訴訟の特徴とそれに向いている人

 ⑴ 特許訴訟以外の知財訴訟の特徴

 特許以外の訴訟分野は、商標、意匠、不競法2条1項1号~3号など、デザインやマークを言葉にすることが求められることが多いです。

 

 ⑵ 特許訴訟以外の知財訴訟に向いている人

 特許訴訟と比較すると記録の量などは少ないですし、準備書面も短いことが多いのですが、この手の案件は、どう説明するのか、言葉の選択に迷うことが多いです。起案は遅々として進みません。日本語の語彙力が豊富で、表現力に自信のある方が向いているでしょう。

 また、こういった案件は裁判官の印象で結論が決まってしまう部分が大きいので、その心証を如何にこちらに引き寄せるか、写真の撮影方法や準備書面上での見せ方など、一般の訴訟とは違った工夫が必要になります。柔軟な考え方が必要だと思います。 

 

4 まとめ

 今回は、知財訴訟をさらに掘り下げて業務内容を説明してみました。次回は、知財訴訟以外の業務分野についても、簡単にご説明したいと思います。      (河部)

投稿者: 小林・弓削田法律事務所

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