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ダブルトラックにおける無効審判の意義

2023.01.12 Thu
  • 知的財産訴訟
  • 弁護士/平田 慎二

 日本の手続において、被疑侵害者側が特許の無効理由を争う場合、特許庁における無効審判とは別に、特許権侵害訴訟において無効の抗弁(特許法第104条の3)を主張することが認められています。
 これがいわゆる「ダブルトラック」であり、特許の有効性に関する判断が、①無効審判ルート(無効審判、審決取消訴訟及び上告審)と②侵害訴訟ルート(侵害訴訟、控訴審及び上告審)の2のルートで行われ得ることになります¹。

 弊所で被疑侵害者側の依頼者から相談を受ける際に、特許権侵害訴訟において無効の抗弁を主張できるのに、無効審判を別途請求する必要があるのかどうかという質問を受ける場合があります。確かに、無効審判を別途請求するとなると依頼者に経済的負担をかけてしまうことになりますが、弊所としては必ず無効審判請求はした方がよいと回答しております。
 まず、無効の抗弁は東京地裁又は大阪地裁の裁判官が判断者であるのに対し、無効審判は特許庁の審判官が判断者であり、判断者が異なる以上、両者が違う結論になる場合もあります。そのため、被疑侵害者側としては、無効審判を請求することで、無効理由を2回判断してもらう機会を得ることができます。
 実際、弊所が受任した事件でも、地裁の判断と特許庁の判断が異なるケースは少なくありません。統計的にみても、特許庁審判部が公開している審判制度ハンドブックによると、2020年では両者の判断の一致率が83%となっており、17%は判断が異なることになります。
 特許権侵害訴訟においては、平成26年から令和3年までの間で全体の30%が和解により終結しており(知財高裁の統計データ参照)、心証開示後の和解協議も重要な審理手続です。この和解協議の段階において、被疑侵害者としては、地裁と特許庁のいずれか一方から特許無効という判断をもらうことができれば、交渉を有利に進めることができます。

 また、無効理由の判断について、地裁の結論が出るまでには1年以上かかることが一般的ですが、特許庁の結論はそれよりも早く出るケースが多いです。前掲の審判制度ハンドブックによると、2020年では特許庁の判断が先となった事件数は20件である一方、地裁の判断が先となった事件数は7件となっており、約4分の3は特許庁の判断が先行します。
 特許庁が先に特許無効と判断すれば、侵害訴訟での和解交渉を有利に進めることができます。反対に、特許庁が先に特許有効と判断してしまっても、前述のとおり、特許庁と地裁の判断が必ずしも一致するわけではありませんので、地裁が特許無効と判断する可能性は残っています。

 さらに、裁判所の判決は当事者に対する効力しかありませんが、無効審判の審決は対世効を有しています(特許法第125条)。そのため、特許無効の審決が確定すると、第三者との関係でも特許が無効となってしまいます。このことから、無効審判を請求されているということ自体が特許権者側にとってプレッシャーとなります。

 加えて、無効審判の審理について、従前は原則として口頭審理が1回開かれるのみでしたが、令和4年6月1日から、十分な主張・立証の機会の確保と争点整理のために、口頭審尋や面接(技術説明)を利用することが可能となりました。これらの手続を利用することにより、従来の口頭審理に比べてより活発な議論でき、無効審判の審理がより充実するものとなります。

 このように、被疑侵害者側の訴訟戦略として、無効審判を請求することの意義は大きく、裁判と同様に代理人の手腕が問われる場面だと考えております。

平田


1.知財高裁においては、特許権侵害訴訟の控訴事件と審決取消訴訟が知財高裁に同時期に係属した場合には同じ部へ配点される運用がとられています。そのため、無効審判ルートと侵害訴訟ルートとは、最終的には知財高裁で判断が統一されることになります。

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