弁護士ノート

lawyer notes

弁理士会・二弁合同研修①

2020.03.02 弁護士:河部 康弘 知的財産訴訟

1 年1回行われる弁理士会と二弁の合同研修
2月13日に、清水節先生と松下正先生が講師を務める日本弁理士会・第二東京弁護士会の合同研修「近時の裁判例を踏まえた戦略的実務」を受講してきました。
この弁理士会と二弁の合同研修は毎年1回行われていますが、今年から私が日本弁理士会研修所側の担当者となり、今回初めて企画に携わらせていただいたものです。
本ブログでは、この研修に参加した感想について、以下の①〜③の内容の中から、②と③についてお書きしたいと思います。
① 進歩性についての最高裁令和元年8月27日判決「局所的眼科用処方物事件」を分析する(清水先生)
② 近年の逆転判決について(松下先生)
③ 裁判体の心証形成と当事者の主張の在り方について

2 松下先生ご担当「近年の逆転判決について」
松下先生は、判決の速報をまとめたサイト「知財道しるべ」を運営されている最新の知財裁判例に非常に詳しい先生であり、今回の「近時の裁判例を踏まえた戦略的実務」というテーマで弁理士側から推薦するとしたら松下先生が一番と思い、推薦させていただきました。松下先生の担当部分は、ラストのディスカッション部分で清水先生にお聴きした事項を引き出すために工夫いただいており、受講された多くの先生方が「よくその内容を引き出してくれた」と思われたのではないでしょうか。

3 構成要件解釈はそうそう覆らない!?
清水先生にお話しいただいた内容で印象に残っているものの1つ目は、「第一審で下された構成要件解釈はそうそう覆らない」というものでした。
題材は一審判決逆転で構成要件の充足が認められた知財高裁平成29年(ネ)第10092号で、松下先生からの「構成要件解釈が原審と控訴審で覆るケースは珍しいのか。」という趣旨の質問に、清水先生は「構成要件解釈という特許訴訟の最も基本的な部分について原審が下した判決について、原審と同じ事情の下で解釈が覆ることはほとんどない。実際に審理をした中でも、ほとんどなかった。」という趣旨の回答をしていました。
全ての知財裁判官が同じ感覚をお持ちかどうかは分かりませんが、上記からすると、控訴審で構成要件解釈について逆転を狙う際には、単に理屈を主張するのみならず、何かしら原審とは異なる判断材料を提供できるように一審以上に知恵を絞り、立証手段の模索に労力を注ぐ必要があることになります。

4 個別具体的な案件を見よ!
そして、2つ目は、「個別具体的な案件に集中し、他の裁判例にとらわれすぎない」ということです。
題材はプーマのパロディ図形が逆転で無効となった知財高裁平成29年(行ケ)第10206号で、松下先生が関連する事件の影響について清水先生にお尋ねしたところ、清水先生は、「関連事件では、『シーサー』を表す文字などが入った商標の事件が存在している。本件の審決は、その結論に引きずられて、『シーサー』を表す文字が入っていないにもかかわらず、結論を決めてしまったのではないか。具体的な商標を見れば、シーサーの観念は生じないはずである。」という趣旨のことをおっしゃっていました。
また、別事件の判決の影響について、清水先生は、「別事件の判決は、最高裁判決及び知財高裁大合議判決を除いて、過度に重視しない⇒通常の判決は、一般論の部分は重要ではなく個別事案における具体的判断が最も大切である」であると記されておられます(当日の配布資料)。
口頭の説明では、「知財部の裁判官なら、参考にしなければならない有名な判決は知っている。準備書面内で言及してもらえれば十分で、資料などは必要ない。その他の知らない裁判例については、個別具体的な案件の方が重要であまり参考にしない。異なる判断をしたくないのは、ほとんど同じ構成の商標について先行判決がある場合くらいである。なお、裁判所の判断を経ていない審決については、それを参考に判決をすることはあまりない。」という趣旨のことをおっしゃっていました。
知財事件において裁判例や審決例をどの程度参考にするのかについて、裁判官のリアルな感覚がうかがえたことだけでも、今回の研修には価値があったと思います。

(河部)

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