弁護士ノート

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商標法等改正による個人輸入規制

2021.03.25 弁護士:藤沼 光太 商標法

 政府は令和3年3月2日,海外から国内への商標権侵害品の取り締まりを強化するため商標法等改正案を含む関連法案の閣議決定を行いました。これまで事業者を対象として商標権侵害品の輸入行為を規制してきましたが,この改正により個人輸入の場合でも税関での没収ができるようになりました。
 それでは,これまでとどのように法律が変わったのでしょうか。閣議決定では商標法のほか意匠法の改正についても決定がなされましたが,今回は商標法について簡単ではありますが見ていきたいと思います。

 これまで,商標法2条1項で,
「この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)」
と規定されていたことから,「業として」使用する商標権侵害行為に限って輸入規制の対象としてきました。
 この「業として」との文言があることにより,例えば,海外から日本国内の個人が侵害品を輸入する際,個人使用が目的であり「業として」には当たらないと反論されてしまった場合,規制をすることは極めて難しい状況にありました。

 今回の商標法改正の閣議決定は,このような個人使用目的の侵害品の輸入が増大していることに対応したものです。
 今回の閣議決定により商標法2条7項として,以下のとおりの条文が追加されました。
「7 この法律において,輸入する行為には,外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。」

 この条文が追加されたことにより,「外国にある者」を行為主体とし,「外国にある者」が郵送等により日本国内に侵害品を持ち込ませる行為を「輸入」に該当することになるので,個人が海外から侵害品を輸入することを防ぐことができます。
 もっとも,今回の改正のポイントは,①あくまで侵害行為主体は「外国にある者」であって,日本国内にある個人ではない,②「輸入」という行為の前提として,商標法第2条1項の定義が当てはまらないといけないので,「外国にある者」も「業として」行っている必要があるという点です。
 ひとまずは,海外の業者から日本国内に個人が輸入する侵害品について,今回の法改正で対応できますが,海外の個人からの輸入の場合には法的には規制できないことや,裁判となった場合に被告が「海外にある者」となるので,実際に訴訟を起こすことは少ないものと考えられます。
 また,輸入をする個人を訴訟の被告とできるかについて,商標権侵害の共同不法行為者として位置づけられるとは思われますが,この点について,今後どのような法的構成で裁判が起こるか注目されます。

弁護士 藤沼光太

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