弁護士ノート

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薬機法にも課徴金制度が導入

2021.08.12 弁護士:弓削田 博 薬機法マネジメント

改正薬機法の目玉
 令和3年8月1日から,改正薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)が施行されました。本改正の目玉は,課徴金制度の新規導入です。健康食品や化粧品等の広告規制には,他に景品表示法があり,同法では,すでに課徴金制度が導入済みです。そして,今般,課徴金制度が薬機法にも追加されました。

薬機法の適用範囲
 薬機法は,ひと昔前には「薬事法」と呼ばれていた法律です。この法律は,医薬品,医薬部外品,化粧品及び医療用具等の製造・販売の規制や適正化を目的としています。
 薬機法の第1条を読めば,医薬品や化粧品が規制の対象になっていることはすぐに分かります。この法律が厄介なのは,医師に処方されたり,薬局で買うようないわゆる医薬品以外のモノ,例えば,健康食品も「医薬品」として規制の対象になる可能性があるところです。一般の感覚からすれば,健康食品は「食品」であって「医薬品」ではないのですが,健康食品であっても,医薬品的な効能効果を標ぼうした場合には,薬機法上の「医薬品」として規制の対象となります。この医薬品的な効能効果の標ぼうとしては,以下の3つが挙げられています。

 ① 病気の治療又は予防を目的とする表現
 ② 身体の組織機能の一般的増強,増進を目的とする表現
 ③ 医薬品的な効能効果の暗示

 ですから,健康食品であっても,「ガンに効く」,「高血圧の改善」,「生活習慣病の予防」,「動脈硬化を防ぐ」,「緑内障の治療に」といった広告をした場合には,薬機法上の「医薬品」として取り扱われます。
 したがって,健康食品を製造・販売する事業者は常に薬機法を意識しておかなければなりません。これは,化粧品等を製造・販売する事業者でも同様です。化粧品の効果効能として使用できる表現は,56の表現に限られています。

薬機法の規制内容
 薬機法の広告規制で実務上問題となることの多い条項が次の2つです。

(虚偽又は誇大広告の禁止)
 第66条1項
 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
(承認前の医薬品等の広告の禁止)
 第68条
 何人も、第14条第1項、第23条の2の5第1項若しくは第23条の2の23第1項に規定する医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ第14条第1項、第19条の2第1項、第23条の2の5第1項、第23条の2の17第1項、第23条の25第1項若しくは第23条の37第1項の承認又は第23条の2の23第1項の認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。

 したがって,健康食品や化粧品について,客観的証拠に基づくことなく,事実に反する広告や実際よりも大げさな広告を行ったりしますと,薬機法の規制に違反することになります。
 なお,この2つの条項では,その主体が「何人も」とされています。つまり,誰でもが薬機法の規制の対象になり得るということです。よって,製造メーカーや販売会社はもちろん,広告代理店や広告制作会社,広告媒体,果ては個人のアフィリエイターやインフルエンサーも規制の対象となり得ます。

薬機法の規制に違反した場合のペナルティに課徴金制度が追加
 薬機法66条1項や同68条に違反した場合の罰則については,2年以下の懲役若しくは200百万円以下の罰金又はその併科刑とされています(薬機法85条。なお,法人及び使用人については200万円以下の罰金(同90条2号))。
 今回の改正前までは,この罰金200万円が最高額でした。ですから,懲役刑は措くとして,罰金200万円さえ覚悟すれば,虚偽・誇大広告は,やった者勝ちという側面は否定できませんでした。
 しかし,今回の薬機法の改正で課徴金制度が新たに導入され,原則として違反行為を行っていた期間における対象商品の売上額の4.5%が課徴金として徴収されることになりました。課徴金の対象となる違反期間の上限は3年間ですので,違反期間が3年を超える場合は,最後に対象商品を取引した日から遡って3年間が課徴金算出の基礎となります。冒頭に申し上げた景品表示法の課徴金は売上額の3%ですので,それより高額です。なお,薬機法違反であるとともに景品表示法違反でもある案件の場合には,景品表示法違反の課徴金分の3%が控除されるため,薬機法違反としての課徴金は残りの1,5%分ということになります。
 課徴金の対象となる主体ですが,薬機法75条の5第1項に「医薬品等の対価の額の合計」と規定されているため,対象商品の製造・販売や流通に関わった企業等が該当します。他方,広告代理店や広告制作会社,広告媒体,個人のアフィリエイター等には,「医薬品等の対価」が発生することはないので,課徴金の対象とはなりません。
 もっとも,これら課徴金の対象とならない事業者等も,薬機法72条の5が規定する措置命令の対象にはなります。したがって,こうした事業者等も,薬機法に違反する行為を行った場合には,社告等の対応が必要となることがありますので,広告の表示等に際しては,十分な注意が必要です。

(弓削田)

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