弁護士ノート

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コーポレートガバナンス・コード改定に伴う報告書の内容についての検討会

2021.10.07 弁護士:藤沼 光太 その他の知的財産関連業務 一般企業法務 危機管理・コンプライアンス

 2021年6月11日に東京証券取引所が発表した企業統治指針、いわゆる「コーポレートガバナンス・コード」において、「知的財産情報の開示」と「知的財産への投資について監督する取締役会等」の義務が明記されたことは、知財業界に大きな衝撃を与えました。
 具体的には、「適切な情報開示と透明性の確保」において

「3-1.③ 上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。」

と記載され、「取締役会等の責務」において

「4-2.② 取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきである。 また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする 経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。」

と記載されました。コーポレートガバナンス・コードが適用されるのは上場企業に限られるものの、上場企業において、知的財産の情報開示義務と取締役会における知的財産への投資に関する監督義務が明記されたことになります。

 また、コーポレートガバナンス・コードに関して、上場企業は報告書の提出を義務付けられており、こちらの報告書は投資家にとっても、どこの企業に投資するかを判断するうえで重要な指標となっています。この報告書が投資家における投資の指標の一つとなりうるため、コーポレートガバナンス・コードに関する報告書にどのようなことを記載するかを中小企業が理解しておくことも重要かと思われます。

 コーポレートガバナンス・コードに関する報告書の提出は2021年12月末までとなりますが、現時点で知的財産についてどのようなことを報告書に記載するかについてはまだ確定しておらず、今後発表される見通しです。

 なお、内閣に設置された知的財産戦略本部での知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会における2021年9月24日付の資料には、コーポレートガバナンス・コードの改訂にどのように対応していくかについて、以下のようなことが記載されていますので参考までに掲載いたします。

「(3)知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に向けた対応例

 企業は、改訂コーポレートガバナンス・コードの趣旨を踏まえた上で、今後、知財投資等についての開示や取締役会による実効的な監督を行うことが求められる。例えば、これから知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に本格的に取り組んでいこうとする企業は、まずは①の自社の現状のビジネスモデルと強みとなる知財・無形資産の把握・分析を行うための取組に着手し、その後、本年中に本検討会がとりまとめることとしているガイドラインを参照しつつ、②から④までのプロセスを進めていくことが考えられる。

 ①自社の現状のビジネスモデルと強みとなる知財・無形資産の把握・分析
 企業は、まず、経営における知財・無形資産の重要性を踏まえ、自らのビジネスモデルを検証し、自社の経営にとってなぜ知財・無形資産が必要であるのか、どのような知財・無形資産が自社の競争力や差別化の源泉としての強みとなっており、それがどのように現在及び将来の価値創造やキャッシュフローの創出につながっているのかについて、しっかり把握・分析することが期待される。また、IPランドスケープ1の活用等により、自社の知財・無形資産が他社と比べて相対的にどのような位置づけにあるかについても把握・分析し、自社の知財・無形資産の強みを客観的に捉えることが重要である。

 ②知財・無形資産を活用したサステナブルなビジネスモデルの検討
 企業は、将来に向けどのような知財・無形資産の活用により、どのような価値を顧客や社会に提供し、キャッシュフローの創出に結びつけ、サステナブルな企業価値向上につなげていくかについてのビジネスモデルを検討し、これを説得力のあるロジックとして投資家・金融機関に説明していくことが求められる。そのためには、これまでのビジネスモデルがサステナブルかどうかを分析し、将来に向けどのようなビジネスモデルによって競争優位・差別化を維持し、利益率の向上につなげていくかの検討が必要となる。

 ③競争優位を支える知財・無形資産の維持・強化に向けた戦略の構築
 企業は、将来の競争優位・差別化を支える知財・無形資産の維持・強化に向け、どのような投資を行い、あるいはその損失リスクに対してどのような方策を講じていくかについての戦略を構築することが期待される。そのためには、今後どのような知財・無形資産の投資を行う必要があるのか(顧客ネットワークの維持・強化、研究開発による自社創造、M&Aによる外部からの調達など)、自社の知財・無形資産を守るためにどのような方策をとるべきか(他社による侵害への対応など)について検討する必要がある。さらに、こうした戦略を投資家・金融機関等に対して説得的に説明し、有意義な対話を進めていくためには、客観的な説明や定量的なKPIによる補強されたロジックを構築することが必要である。
 
 ④戦略を着実に実行するガバナンス体制の構築
 上記のような内容を盛り込んだ知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・実行に向けては、社内に持続的に企業価値を高める方向で規律付けられるガバナンスの仕組みが存在し、適切に機能していることが求められる。そのためには、上記①から③までのプロセスを進めるのと並行して、社内の関係部門が横断的かつ有機的に連携し、取締役会による適切な監督が行われる体制を構築することが必要となる。とりわけ、取締役会による監督は、社内において議論されている知財・無形資産の投資・活用戦略を、投資家・金融機関に説得的に説明できる骨太な議論へと昇華させる意義を持つものであり、そうした観点を踏まえ、在るべき取締役会の監督体制を検討することが求められる。」

 以上のように、コーポレートガバナンス・コードの改訂により、投資家が企業における知的財産戦略により着目するものと考えられますので、引き続き、どのような知的財産の情報を上場企業が投資家に提供するか、どのようなコーポレートガバナンス・コードに関する報告書とすべきかについて、上場企業のみならず中小企業においても注視しておいた方がよいと思われます。

(藤沼)

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