弁護士ノート

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2014年から2020年までの「特許権侵害訴訟の原告勝訴率」

2022.02.24 弁護士:小林 幸夫 特許法 知的財産訴訟

 2015年3月23日の当所のブログで、弓削田弁護士が「特許権侵害訴訟の原告勝訴率」を紹介しました。
 平成23年〜25年の3年間で下された144件の判決中、原告勝訴判決は37件、割合にするとわずか25.7%ですが、勝訴的和解を含めた場合の割合は、約42%であること、よって紛争解決手段として訴訟提起することは大きな意味がある、ということを述べていました。

 今回は、最近公表された平成26年〜令和2年までの特許権侵害訴訟の統計表を紹介しながら、最近の原告勝訴率、紛争解決手段としての訴訟の意義について考えてみたいと思います。
下の通り知財高裁統計欄にて公開された表をご覧下さい。

 同表によると、平成26年〜令和2年までの特許権侵害訴訟の件数は6年間で、590件、1年平均98件です。原告勝訴率(認容判決)をみると、21%となっています。やはり原告勝訴率は低いです。しかし、判決以外の紛争解決手段である裁判上の和解の率は、全体の32%、そのうち勝訴的和解と考えられるブロックの件数は148件です。先ほどの原告勝訴判決と合算しますと、全部で46%となります。以前の約42%からしますと若干上昇しています。やはり特許権侵害紛争における解決手段として、訴訟を提起する意義はあるといえるのではないでしょうか。

 なお、知財訴訟のもうひとつのカテゴリーである審決取消訴訟の統計表も最近公開されましたのでみてみたいと思います。知財高裁統計からの引用です。

 同表からしますと、年々審決取消訴訟の件数は減少しています。

 当方は、この減少傾向の原因が、特許庁の審判部における特許査定率が高くなってきたことにあると思っていました。しかし、特許庁2021年年次報告書の統計によれば、下の表のとおり審判請求成立率はここ数年だけでなく以前からの傾向のようです。従って、審決取消訴訟の数の減少の原因は審判部の登録査定率の高さが原因とも言えないようです。では、審決取消訴訟における認容率(取消率)が低いから訴訟を躊躇しているのかと思い、その割合を調べてみました。特許庁年次報告書にその率が記載されていました。

 図の通り、査定系は25%、当事者系は17%の取消率(原告勝訴率)となっています。当事者系は判決以外にも侵害訴訟と並行した裁判上の和解による解決があるので、数字には現れませんが、審決取消率は決して低いとは言えないと思います。そうしますと、知財訴訟のもうひとつの柱である審決取消訴訟の提起も、やってみる価値は十二分にあると思いました。

弁護士・弁理士 小林 幸夫

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