弁護士ノート

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特許権侵害訴訟の電子申立てを行いました

2026.08.12 弁護士:平田 慎二 弁護士業務

 令和8年5月21日、民事訴訟手続のデジタル化、いわゆる「フェーズ3」が始まりました。これにより、弁護士等の訴訟代理人が民事訴訟を提起する場合には、原則として、mints(民事裁判書類電子提出システム)を利用して電子申立てを行うことになりました。
 当事務所でも、フェーズ3の開始以降、各種民事訴訟について電子申立てを行っています。なかでも、主要な取扱分野である特許権侵害訴訟については、本記事掲載時点で17件の電子申立てを行い、新しい制度の下での実務経験を重ねております。
 今回は、実際に電子申立てを行う中で感じた、従来の手続との違いや便利になった点、注意が必要だと感じた点についてご紹介します。

1.印刷作業の負担軽減
 特許権侵害訴訟では、訴状のほか、特許公報、対象製品に関する資料などを提出しますが、従来は、正本及び相手方用の副本に加えて、裁判所の手控え用として4通の写しを提出する運用とされていました。そのため、証拠が多い事件では、書類を印刷するだけでも相当な作業となり、印刷した書類を段ボール箱に詰めて裁判所へ郵送することもありました。
 これに対し、電子申立てでは、まず、訴状と添付書類をPDF等の電子データとして提出します。その後、裁判所による立件が行われ、事件と代理人のmintsアカウントとの関連付けが完了してから、証拠や証拠説明書をアップロードする流れとなっております。
 このように、従来は正本、副本及び複数通の写しを印刷していた訴状や証拠を、電子データで提出できるようになったため、印刷作業の負担は大きく軽減され、電子化のメリットを実感しやすい部分だと思います。
 ただし、紙での提出が一切不要になったわけではなく、訴訟提起の段階で被告に訴訟代理人が選任されていないなど、システム送達ができない場合には、mintsから送達用のデータをダウンロードし、印刷した書面を裁判所へ提出することになります。それでも、紙で提出するのは被告への送達に必要な部数に限られるため、従来のように裁判所の手控え用を含めて複数通の写しを準備する負担は軽減されています。

2.訴訟記録のオンライン確認
 フェーズ3の開始により、調書等を含む訴訟記録がmints上にアップロードされ、当事者や代理人は、各自の端末からオンラインで閲覧・ダウンロードできるようになりました。従来は、調書等を確認するために、裁判所での閲覧や謄写が必要となることがありましたが、現在は、期日後に事務所から訴訟記録を確認できるため、訴訟準備を進めやすくなったと感じています。
 また、訴訟記録へのアクセスが便利になった一方で、秘密情報を保護するための仕組みも整備され、フェーズ3では、和解条項案その他の和解協議の内容が記載又は記録された部分のうち、口頭弁論外の和解協議に関するものについては、閲覧できる者が当事者及び利害関係を疎明した第三者に限定されました。
 特許訴訟の和解では、ライセンス条件、販売停止の時期、在庫の処理方法、製品の設計変更など、当事者の事業上重要な情報が和解条項案や協議内容に含まれることが少なくありません。このような和解協議の内容については、口頭弁論外の和解であれば、個別に閲覧等制限の決定を受けなくても、一般の第三者による閲覧が法律上制限されます。訴訟記録の確認が便利になる一方で、和解協議に含まれる秘密情報にも配慮された制度となっています。

3.紙の送達からシステム送達へ
 従来は、裁判所から紙の書類が届くことで、送達の効力が発生することになっていましたが、フェーズ3では、mints上のシステム送達で効力が生じることになりました。裁判所書記官が、送達すべき電磁的記録をmints上で閲覧・ダウンロードできる状態にすると、登録されたメールアドレスに通知が送信されます。そして、原則として、送達対象の記録を閲覧した時、ダウンロードした時又は通知が発せられた日から1週間を経過した時のうち、最も早い時にシステム送達の効力が生じます。
 判決書についても、閲覧又はダウンロードした日によって送達日が決まり、控訴期間等の起算にも影響するので、送達の実務が大きく変わったと感じております。
 そのため、mintsからの通知については、速やかに内容を確認し、送達日や各種期間を適切に管理することが重要になります。

4.仮処分事件は電子申立てに未対応
 特許紛争では、本案訴訟に加えて、差止めの仮処分を申し立てることがあります。しかし、現時点では、仮処分事件については、本案訴訟のようにmintsを利用して電子申立てを行うことができません。そのため、申立書や疎明資料等は、従来どおり書面で裁判所に提出します。
 本案訴訟と仮処分事件が並行して進む場合には、同じ紛争に関する手続でありながら、本案訴訟は電子申立て、仮処分事件は書面提出と、提出方法が分かれます。実際に両方の手続へ対応していると、資料の準備や管理、提出作業をそれぞれ異なる方法で行わなければならず、少し不便に感じる場面もあります。
 仮処分事件を含む民事訴訟以外の民事関係手続についてもデジタル化が予定されており、裁判所の案内では、令和10年6月までにオンライン申立ての対象となる予定となっております。将来的には、本案訴訟と仮処分事件を一体的に管理できるようになることが期待されます。

5.電子裁判の利点と今後への期待
 実際に電子申立てを行ってみると、印刷や郵送に伴う作業が減ったことに加え、訴訟記録を事務所からオンラインで確認できるようになるなど、実務上の利便性は非常に高いと感じています。システム送達についても、通知管理については注意が必要ですが、裁判所から紙の書類が届くのを待つことなく、mints上で速やかに内容を確認できるため、訴訟対応を迅速に進められるという利点が大きく、フェーズ3によって訴訟実務の効率性は大きく向上したと感じています。
 当事務所では、今後も実際の運用を確認しながら、民事訴訟手続のデジタル化の利点を十分に活かし、知財訴訟の特性に応じた効果的な訴訟対応に取り組んでまいります。

弁護士 平田 慎二

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