著者
近年、AI技術の進展は目覚ましく、生成AIの普及により第4次AIブームが到来したとも言われています。実際、弁護士業務においても、契約書のレビュー、法令の検索、判例の分析などでAIの有用性を実感する場面が増えています。
AI関連発明の特許出願もAI技術の進展に伴い急増しており、特許庁の報告書(『AI 関連発明の出願状況調査報告書』(2024年10月))によると、AI関連発明の出願件数は2014年以降急激に増加し、2022年には約10,300件に達しています。また、特許査定率も上昇傾向にあり、2020年には約83%に達しています。
そのような状況の中、弊所でもAI関連発明の特許相談を受ける機会が多くなってきました。その中でも特に多い相談は、既存の技術に生成AIを適用しただけの発明が権利化されており、おかしいのではないかというものです。たしかに、実際に対象となる特許の内容を確認してみると、進歩性が否定されて然るべきと感じる内容の請求項が見受けられます。
このような特許が成立する理由としては、審査の性質上、従来技術が記載された引用文献が見つからない限り、審査官が拒絶理由を構成できないことが一因であると考えられます。
もちろん、特許庁の審査ハンドブックでは、単に従来技術に生成AIを適用しただけでは進歩性が認められないとされています(「特許・実用新案審査ハンドブック」の附属書A5. 事例37、事例38)。しかし、審査実務としては、従来技術が開示されている引用文献が見つからなければ進歩性を否定することはできません。
私自身も審査官時代に、発明の内容が従来技術に該当するのではないかという疑いがあったものの、適切な引用文献を見つけることができず、結果的に特許査定をした経験が少なからずありました。
AI関連発明の特許出願が増加し、特許査定率が上昇していることは、AI技術の社会実装が進んでいることの現れでもあり好ましいものですが、その反面、既存技術と大差ない特許が成立し、AI関連発明は玉石混交の様相を呈しています。今後もAI関連発明の特許出願は確実に増加すると予想され、2000年にビジネス関連発明の特許が乱立した時代を経て、AI関連発明の特許が乱立する時代が訪れると考えられます。
特許庁においては、2021年1月にはAI審査支援チームを発足させ、2023年10月にはAI担当官を増員し、2024年4月には審査官をサポートする外部有識者としてAIアドバイザーを新設しており、これらの施策によってAI関連発明の審査の質が向上することが期待されます。
知財弁護士の立場からとしては、AI関連発明が過渡期にある現在、情報提供制度や特許異議申立制度などを積極的に活用し、健全な特許環境を守っていく必要があると強く実感しています。
弁護士 平田慎二