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ご依頼をいただき、弁理士、企業の知的財産部員、弁護士らを対象とした知財関係の講演を長年行ってきました。改めて講演の数を数えてみたところ、今日現在の時点でなんと168回に達していました。内訳は、弁理士対象が99回、企業内講演が52回、弁護士対象が8回、海外の弁理士・弁護士対象が5回、その他が4回、合計168回です。これまで多くの知財講演のご依頼をいただき大変光栄に感じております。
今回は、私が知財関係講演のために、どのような準備をし、講演当日に何を心がけているかについてお話します。次回は、外国での講演の準備と講演当日の心がけについて説明します。なお、ここで取り上げるのはweb講演ではなく、対面での講演を前提としています。
1 準備段階で心掛けていること
① 講演の依頼内容を確認し、さらに受講者、時間、場所の確認を緻密にすること
まず講演の依頼があると、講演内容の確認は当然として、受講者、開始・終了時間、講演場所の設備について細かいところまで確認をします。
② 講演案内の案を作成すること
主催者側が作成するのが一般的ですが、講師が作成したほうがより内容に踏み込んだわかりやすい案となるため自分自身で作成します。
③ 講演場所の下見をするか、少なくとも講演会場とその設備を写真で確認すること
会場が遠方の場合にはウェブミーティングの際にカメラを通じて会場の雰囲気を確認することもあります。
④ 講演資料・スライドの作成
シンプルに、分かりやすく、1スライド1メッセージを心がけています。
⑤ リハーサルは何回も実施し、他の人にも聞いてもらうこと
所員に聞いてもらい、初めてこの講演を聞いた人はどんな疑問を持つのか、話すテンポは受講者にとって聞きやすいか等のアドバイスをもらいます。
2 当日の対応で心掛けていること
① 最低30分前、初めての場所であれば1時間前には到着すること
交通渋滞、電車遅延等不足の事態が起こっても講演に支障をきたさぬようにしています。
② 講演の携行品
念のため、手持ちマウス、指示棒、ヘッドレスト型かピン型マイクを携行します。会場内に設置されている場合はそれを使います。
③ 必ず立って講演すること
平均すると2時間の講演が多いのですが、必ず立って行います。受講者の様子がよく見えること、しっかりとした発声で聞きやすい声を届けられること等、メリットがたくさんあるからです。オペラ歌手の方に個人レッスンとしてボイストレーニングを半年間受けたことがありましたが、その時に受けた訓練・発声方法から、立って講演しないとその訓練・発声法が発揮できないということも理由のひとつです。
④ 受講生の机を適切に移動すること
元々の教室型の椅子配置に任せず、受講者の人数等を考慮して、座席のレイアウトの調整をすることがあります。例えば2人~4人で一つの机を囲んでもらい、私が出題するクイズを話しながら説いてもらうこともあります。これは受講者に主体的な参加を促すためです。
⑤ 常に前を向いてスライドを投影した大型ディスプレイの前に立つこと
準備したレジュメをただ読むのではなく、ライブ感のある講演を意識し、受講者が飽きない講演をとなるように心がけています。右の写真がその例です。
⑥ 「ええっと」「あの~」等、言い淀むことがない様に、句読点を頭に描きながら話すこと
⑦ 受講生とのアイコンタクトをとること
講師が一方的に話す独りよがりな講演にならないよう、受講生の様子を確認しながら話すテンポを調整します。
⑧ 知財訴訟の対象となった現物をできるだけ持参すること
知財は抽象的なものと思われがちなので、訴訟対象物となった「たまごっち」や商標の付されたお菓子を講演会場に持参しています。上記の写真の机の上に、京都のお土産で有名な八つ橋を置いていますが、これは不正競争防止法違反事件の解説のために現物の原告と被告の八ツ橋を持参したのです。
⑨ 終了時間が迫ってもあわてず、今まで通りの口調で話すこと
スライドを全部話すのが講演の目的ではないことから、駆け足で終わらないように最後まであわてずゆったりと講演を終了できるようにしています。そのために、講演中でもすぐ見えるところに時計をおいています。
⑩ 必ずまとめを話して終わること、質問時間もたっぷりと取ること
長時間に及ぶ講演では、最後に話した項目だけが記憶に残ってしまうので、全体を通して伝えたいことを簡潔にまとめ、スライドでも、「まとめ」として紹介します。また、講義終了後は個別の質問の時間をたっぷりとっておくことも重要です。
色々書きましたが、一番大事なことは受講生が大満足するためにはどうしたらよいか、という視点で講演に臨むことだと思います。
次回は、外国での英語による講演の準備と当日の心がけについてお話致します。
弁護士 小林幸夫