弁護士ノート

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裁判例を「読む」ということ――タオル絵柄の著作物性を認めた事例を題材に

2026.04.03 弁護士:山田 亮 知的財産訴訟 著作権法

 法律家の仕事のひとつに、裁判例を調べるという作業があります。目の前の紛争を解決するヒントを、過去の判決の中に探す作業です。
 裁判例を「読む」というのは、意外と奥が深いものです。今回は、タオルとその絵柄の著作物性が争われた事例を題材に、法律家がどんな目線で裁判例を読んでいるのか、ご紹介します。

1 事案の概要
 原告は、生活雑貨の絵柄の制作等を行っているクリエーター(以下「原告クリエーター」といいます。)及びその著作権等を管理する株式会社(以下「原告会社」といいます。)です。
 原告会社は、平成10年1月、被告会社Aとの間で、原告クリエーターの著作物の使用を許諾する基本契約を締結しました。被告会社Aは、被告会社Bに対して上記著作物の使用を再許諾し、被告らは、約20年にわたり、著作物を商品化したタオル商品を製造販売してきました。
 ところが平成29年末、原告会社は、被告らによる違法コピー等の重大な契約違反があったとして、基本契約を解除しました。その後、被告らは、原告らに対し、平成30年4月、損害賠償金の一部として3億円を一括支払いし、当事者間で残額について別途協議する旨の中間合意が締結されました。
 しかし、協議は決裂し、原告らは、被告らに対し、著作権侵害等を理由として、約42億円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました。

2 裁判所の判断
 東京地裁は、絵柄を除くタオル部分の著作物性を否定しましたが、絵柄部分の著作物性を認めて、損害を認定しました。しかし、その額が既払いの3億円を下回るため、弁済済みと判断し、原告の請求を棄却しました(東京地判令和6年3月28日判例時報2604号68頁)。
 これに対して原告は控訴しましたが、知財高裁は、第一審と同様の判断をして、控訴を棄却しました(知財高判令和7年3月26日裁判所ウェブサイト。以下「本判決」といいます)。
      

3 検討
⑴ 問題の所在
 著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法2条1項1号)。
 本判決のタオルのような実用目的のある美的創作物(応用美術)が「美術……の範囲に属するもの」(美術性要件)に当たるのかをめぐり、活発に議論されてきました。応用美術に著作権保護を広く認めると、意匠法等の産業財産権法の存在意義が失われ、また後続のデザイン開発を阻害するおそれがあるからです。

⑵ 従来の裁判例の傾向
 応用美術の著作物性に関する従来の裁判例は、その事案と結論に着目すると、①平面状の物品、②立体状の物品、③通常の実用品に類型化できます。

① 平面状の物品(絵柄・模様など)
 通常の絵画に近いもの(Tシャツや便箋の絵柄、ピクトグラムなど)は著作物性が認められやすいですが、一方、広告等の図柄や実用品の模様(衣服の花柄刺繍、布団の絵柄)については厳しい判断が続いています。

② 立体状の物品(人形など)
 彫像に近いもの(人形やフィギュアの原型、仏壇彫刻、照明用シェードなど)は、一部の古い裁判例を除き、著作物性が認められています。他方、実用的構成が美的構成に溶け込んでいるような、彫像として独立していない形状を備える物品(タコの滑り台など)は著作物性が否定されています。

③ 通常の実用品
 幼児用箸、加湿器、傘立て、姿勢保持具などの通常の実用品は、一律に著作物性が否定されています。かつて幼児用椅子のデザインの著作物性を肯定した知財高裁判決が話題になりましたが、知財高裁は、最近、同種事案においてこれを否定しています。
      

⑶ 本判決の意義
 さて、本判決は、どのように位置づけられるでしょうか。
 まず、通常の実用品であるタオル部分の著作物性を否定したのは、従来の流れに沿った判断であり、想定内です。
 他方、興味深いのは、絵柄部分の判断です。衣服の花柄刺繍や布団の絵柄といった実用品の模様の著作物性を否定した近年の裁判例の流れからすると、タオルの絵柄部分は実用品の模様ですから、その著作物性が否定されてもおかしくなかったのですが、本判決は肯定しました。
 実は、花柄刺繍や布団の絵柄の著作物性を否定した裁判例は、いずれも同じ裁判長によるものであり、「工業製品の絵柄に使われている。」という点を重視して著作物性を否定する傾向があります。しかし、単に工業製品の絵柄に使われていることは、必ずしも美術性要件を否定する根拠にはなりません。本判決は、そうした裁判例の傾向に与せず、絵柄部分の著作物性を肯定した事例であり、先例的価値の高い裁判例であると読むことができます。
 もっとも、本判決は請求棄却判決ですので、著作物性に関する判示は、判決の結論を直接支える判決理由(ratio decidendi)ではなく、謂わばついでに述べた傍論(obiter dictum)にとどまります。
 さらに、当事者が長年にわたり「この絵柄は著作物だ。」という前提で取引を続けてきたという事実も、裁判所の判断に影響しているかもしれません。
 したがって、本判決の先例的価値は必ずしも高くないという読み方もできます。つまり、タオルの絵柄部分の著作物性を認めた先例であると単純に扱うのは危険だということです。

4 まとめ
 判決文を表面だけ読むと、こうなりがちです。
 「弊社が販売するタオルの絵柄について、相手方から著作権侵害だと言われた。タオルの絵柄の著作物性を肯定した裁判例があるから、著作物性を争えない……。」
 しかし、そう断じるのは早計です。
 裁判例を読むとは、その判決がなぜその判断に至ったのかを理解し、自分の事案に本当に当てはまるかを見極める作業です。すなわち、①どの裁判所・裁判体が、②どのような事案について(当事者の関係、紛争に至る経緯、係争物の特性等)、③どのような判断を下したのか、④その判断は判決理由か傍論か、⑤その判断に影響を与えたものは何か、⑥自分の事案はどのような事案か、⑦その判決が自分の事案に当てはまるか否かを吟味することです。
 こうした吟味を経てはじめて裁判例の意義が明らかになるため、一見自分に不利な裁判例が見つかっても諦める必要はありませんし、逆に有利な裁判例が見つかっても油断は禁物です。
 裁判例を探し出すことは誰にでもできますが、裁判例をいかに読むのかが法律家の腕の見せどころなのです。

弁護士 山田 亮

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