弁護士ノート

lawyer notes

知財業界での初体験

2019.07.01 弁護士:河部 康弘 特許法 独占禁止法 知的財産訴訟

とある知財系の懇親会で、弁理士の内田浩輔先生から、7月1日の弁理士の日に、「知財業界での初体験」というテーマでブログを書いてほしいとのご依頼をいただきました。内田先生は、弁理士の日にブログをやっている知財関係者が同じテーマでブログを書くイベントを毎年やっているそうです。

https://benrishikoza.com/blog/benrishinohi2019/

「知財業界での初体験」ということで、何を書こうか悩みましたが、私の中で面白かった初体験事案として、初めて特許権移転登録手続等請求事件を扱った件を挙げてみたいと思います。

一般に冒認を立証するのは大変ですが、私の担当した案件では、開発段階で非常に詳細なノートをつけていたこと、一緒に担当した弁理士の先生が証拠の細かいが重要な部分に気づいてくださったこともあり、最終的に冒認を認める内容の判決を得ることができ、記念すべき平成23年改正で導入された特許法74条1項に基づく特許権移転登録手続の第1号案件となりました!(移転登録手続をやっていただいた弁理士の先生が特許庁で「初めての手続なので…」と言われたということなので、確かだと思います。)

もちろん和解によって解決している事件もあるのでしょうが、平成23年に改正されているのに、平成30年になって第1号案件ですから、やはり冒認関係の訴訟は少ないのだと思います。特に冒認立証について、貴重な経験ができました。

最近になって、公正取引委員会から「製造業者のノウハウ・知的財産権 を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書」が発表されました。その中では、「ほとんど自社の技術を用いて行う名ばかりの共同研究開発であるにもかかわらず、その成果である新技術は、発明の寄与度に関係なく、全て取引先にのみ無償で帰属するという取引先作成の雛形で契約させられ、新技術を奪われる」(事例18)、「新しい発明を出願する場合には、取引先が一切関与していない場合でも、必ず共同出願にしなければならないという取引条件を一方的に受け入れさせられる」(事例20)、「完全に自社単独で生み出した技術であるにもかかわらず、取引先から共同出願とするよう強要されるとともに、自社が第三者へのライセンスを行う場合のみ取引先の承諾が必要となる契約まで締結させられる」(事例21)、といった事例が問題事例として取り上げられています。
上記のような案件では、元々どちらの技術であったかが争点となり、公正取引委員会に動いてもらえるよう働きかけたり、独占禁止法違反に基づく民事訴訟を提起したりする場合、被害を受けた中小企業側で、自社の技術が奪われていることを立証する必要が出てくる可能性があります。
冒認の事実が認められた珍しい案件である本件が、今後独占禁止法という別の分野で注目されることもあるかもしれません。

(河部)

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