弁護士ノート

lawyer notes

専門委員と調査官

2019.12.27 弁護士:河部 康弘 特許法 知的財産訴訟

1 裁判所の技術の理解を助けるための専門家
特許に関する裁判は、単に法律だけでなく技術についても理解が必要となります。裁判官は法の専門家ではあっても技術の専門家ではないため、特許関係訴訟には、他の訴訟とは異なり、裁判官の技術に対する理解を助けるための制度が設けられています。
その一つに、裁判官の技術についての理解を助ける専門家である、「専門委員」「調査官」の存在があります。
そこで、今回は、「専門委員」と「調査官」についてご説明させていただきます。

2 専門委員
「専門委員」は技術分野の専門家であり、特許訴訟の中では、基本的に技術説明会の前に選任され、技術説明会だけに出席して、当事者のプレゼンテーションの内容を聴き、色々と技術的な質問を行います。知財高裁のHPによると、約200人が任命されているそうです。
専門委員が選任されると、専門委員にそれまでの訴訟記録写しを交付しなければならないので、事務作業は結構大変です。

3 調査官
調査官は、裁判所に常駐する職員であり、特許庁の審査官や審判官、弁理士出身者です。常勤ですから、裁判官の技術的な疑問に日常的に対応することになります。
なお、東京地裁では、調査官の分の訴訟記録写しを提出するように求められます。

4 専門委員と調査官のどちらの意見がより審理に影響するのか?
代理人の立場からすると、一番気になるのは、「専門委員や調査官の意見が審理にどの程度影響するのか?」という点です。
専門委員が技術説明会の日に1回限り裁判官と顔を合わせるだけなのに対し、常勤の調査官は普段から裁判官と接していますから、意見を求められる回数も多く、一般論としては、調査官の意見の方が影響しやすいと思われます。
もっとも、1回限りなだけに、逆に審理をずっと追い続けている裁判官や調査官、当事者が気づかなかったことに専門委員が気づくこともあります。私が担当した案件でも、我々が焦点を当てていなかった事実が専門委員の先生のご質問によって浮かび上がってきて、事件の流れに影響したと感じるケースもありました。
技術説明会では、専門委員、調査官から技術的な質問をされることもあります。今のところ答えられなかったことは一度もないのですが、それでも技術の専門家ではない私にとっては、かなり緊張する瞬間です。

(河部)

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