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キャラクターは著作権で守られるか?(木枯し紋次郎事件)

2026.03.02 弁護士:平塚 健士朗 著作権法

 近年、アニメや漫画のみならず、小説の登場人物や企業オリジナルのキャラクター等、多種多様なキャラクターを活用した「キャラクタービジネス」が広く展開されています。グッズ化やタイアップ等により大きな経済的価値を生み出す一方で、「キャラクターは著作権によってどこまで保護されるのか」という問題は、実務上非常に重要かつ複雑なテーマです。
 今回は、キャラクターの著作権が争点となった最近の裁判例である「木枯らし紋次郎事件」について解説します。

1.キャラクターの保護範囲
 キャラクターの著作権を考える上で、欠かせないのが「ポパイ・ネクタイ事件」の最高裁判決(最一小判平成9年7月17日民集51巻6号2714頁)です。この判決において、最高裁はキャラクターを以下のように定義し、キャラクター自体の著作物性を否定しました。

 「漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念」

 つまり、キャラクターという「設定」や「概念」そのものは具体的な表現ではないため、キャラクター自体は著作物ではないと判断されたのです。

 一見すると、キャラクターは著作権法上一切保護されないようにも思えます。しかし、そうではありません。保護されないのはあくまで「抽象的な概念」としての「キャラクター」であり、そのキャラクターを描いた「具体的なイラストや文章」は、当然ながら著作権法上の保護対象となり得ます。

2.木枯し紋次郎事件
(1)原審(東京地判令和5年12月7日(令和5年(ワ)第70139号):請求棄却
 本件は、ロングセラーの駄菓子「紋次郎いか」のパッケージイラストが、小説「木枯し紋次郎」の著作権を侵害するかが争われた事案です。原審では、原告は、連載小説に係る著作権侵害を主張しましたが、裁判所は主に以下の理由で請求を棄却しました。

・被侵害著作物の特定不足
 連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのかが具体的に特定されていない。

・創作性の否定
 原告が主張した「①通常より大きい三度笠を目深にかぶり、②通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、③口に長い竹の楊枝をくわえ、④長脇差を携えた渡世人という記述」は、江戸時代の渡世人の姿としてありふれた事実やアイデアにすぎず、創作性がない。

(2)控訴審(知財高判令和7年9月24日(令和6年(ネ)第10007号)):請求認容
 これに対して控訴審では、連載小説そのものではなく、当該連載小説の二次的著作物である「テレビ作品の画像」に係る著作権が侵害されているかが中心的に審理され、最終的に著作権侵害が認められています。

 知財高裁は、テレビ作品の画像の紋次郎について、以下の4つの特徴を全て兼ね備える者と認定しました。

 ①通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも大きな三度笠をかぶり、
 ②通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも長く、模様が縦縞模様である道中合羽を身に着け、
 ③細長い楊枝をくわえ、
 ④長脇差を携えている

 その上で、これらの特徴を「独自の創作的な表現」と認め、「紋次郎いか」のイラストには手描きの誇張があるものの、テレビ作品画像の表現上の本質的な特徴を直接感得できるとして、著作権侵害を認定しました。

【テレビ作品の画像の紋次郎】
(控訴審判決別紙3控訴人らの著作物における具体的表現と被控訴人図柄の対比表より)


【紋次郎いかのイラスト】(控訴審判決別紙2被控訴人図柄目録より)

3.所感
 原審では、連載小説の著作権侵害が争われたのに対して、控訴審では、テレビ作品の画像の著作権侵害が主な争点となり、最終的な結論が変わっています。
 一般論として、小説等の文章表現に係る著作物に基づき、イラストに対して著作権侵害を主張することは、原審でも認定されているように、著作物の特定や創作性、また、類似性判断の点でハードルが高いと思われます。この点に関して、控訴審では、連載小説の「紋次郎」に関する表現の創作性の有無については特に言及することなく、連載小説から派生した二次的著作物であるテレビ作品の画像についてのみ創作性や類似性判断を行って著作権侵害を認定しています。

 また、控訴審では、テレビ作品の画像について、画像全体から「紋次郎」の部分を抜き出した上で、「紋次郎」の要素として原審とほぼ変わらない特徴を認定し、その点に創作性があり、「紋次郎いか」のイラストと類似する旨判断しています。1私見としては、比較的抽象的な特徴が認定された印象であり、実質的に、本件テレビ作品に登場するキャラクター、ひいては、小説のキャラクターについて権利行使を許容しているのとあまり変わらないようにも思えます。

 昨今、小説に限らずメディアミックスはよく行われていますが、作品が二次元作品や実写作品等幅広く様々な表現方法で二次的に利用されることは、作品中に登場するキャラクターの具体的表現を増やし、その権利範囲を拡大させることにつながるため、ビジネスのみならずキャラクター保護の観点からも、意義のあることといえます。


    1 同様に写真とイラストの類似性が争われた裁判例(東京地判平成30年3月29日判時2387号121頁)では、被写体だけでなく、被写体の配置や構図、被写体と光線の関係、色彩の配合、被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現に特徴がある旨認定されているのに対して、本件では、画像中の被写体のみに着目されている。

弁護士 平塚 健士朗

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