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もっと使える不競法2条1項20号(品質誤認表示)

2023.06.01 弁護士:河部 康弘 不正競争防止法

 今回は、最近私の担当するご相談で検討する機会が多い不正競争防止法2条1項20号(品質誤認表示)について、私がもっと注目されていい条文なのではと考えている理由をお伝えしたいと思います。

1 不競法2120号の内容
 不競法2条1項20号は、「商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為」を不正競争行為と定めています。

 品質等について誤認させるような表示をしていれば不正競争行為となり、ライバル企業は差止請求、損害賠償請求ができるわけです。

2 「品質」「内容」の範囲は広い
 金井重彦・山口三惠子・小倉秀夫編『不正競争防止法コンメンタール<改訂版>』は、「品質」について、「商品の原産地・製造者、原料の仕入先・仕入方法なども、品質の如何を間接的に推認させる事実として、『品質』についての表示に該当しうる。販売量の多寡、業界における地位、企業の歴史、取引先、提携先や創業年代などの『営業』を詐称する表示についても、営業の詐称にとどまらず、商品の品質や役務の質の如何をも表示していると見られる場合には、『品質』についての表示に該当する。」としています(180〜181頁)。

 また、同書は「内容」について、「次に、『内容』とは給付内容をいうが、その意義は幅広く、商品・役務の属性情報の多くを『内容』の文言に読み込むことが可能である。『原産地、品質、製造方法、用途、数量』も広義には『内容』といいうる。その他、原材料、成分、製造年月日、賞味期限や中古新品の別なども、『内容』に含まれる。」としています(181頁)。

 実際の裁判例について、経済産業省知的財産政策室編『逐条解説不正競争防止法〔第2版〕』は、「判例上、『品質』を誤認させるような表示であると判断された例として、加工食品の原料に関する誤認表示、古米や未検査米を新米とした表示、酒税法上『みりん』とは認められない液体調味料に『本みりん』であるかのようにした表示、ろうそくの燃焼時に発生する煤の両党に関する誤認表示、国や公的機関等による認定・保証があるかのようにした表示、特許発明の実施品であるかのようにした表示等がある。また、中古自動車の走行距離数に関する表示も『品質』に関する表示に該当するものと考えられる。」としています(146頁)。

 このように、「品質」や「内容」の範囲は広く、様々な局面に対処でき、商標で対処できないようなフリーライド事案にも対応できる可能性があります。

 例えば、
① 老舗店舗が親族間のお家騒動で分裂して、分裂して出て行った側が本家の歴史を自社の歴史かのように宣伝している場合に、本家側が企業の歴史を「品質」として訴える
② メーカーと販売代理店の間で、販売代理店がメーカー側を切って別のメーカーに乗り換えたのに、過去の販売実績を別のメーカーの半ば実績かのように宣伝している場合に、メーカーが元販売代理店販売実績を「品質」として訴える
 など、使いどころはたくさんありそうです。

3 景表法より使い勝手が良い!?

 小野昌延編『新・注解不正競争防止法〔第3版〕(上巻)』の不競法2条1項20号の解説部分でも触れられているとおり、景品等表示法は、この2条1項20号とかなり似たものを規制しています。

 しかし、景表法と不競法では、品質誤認表示に対し、誰が主導権をもって対処するのかという点が違います。

 景表法は、消費者庁などの行政が品質誤認表示をした者に対応するのに対し、不競法では、差止請求(不競法3条)・損害賠償請求(不競法4条)によって、直接ライバル企業を訴えることができます。

 行政の人員が無限大であれば、どんな品質誤認表示にも対応してくれるのかもしれませんが、現実には、消費者庁も消費者被害の大きい案件から順に取り扱うでしょうから、明らかに景表法違反でも、動いてくれない場合も多いでしょう(景表法にも適格消費者団体による差止請求はありますが、これは消費者保護の文脈であってライバル企業の違法な広告を止めるという目的からは外れます。)。

 これに対し、不競法なら、民事訴訟を提起することは裁判を受ける権利によって保護されている権利ですから、確実に裁判所に取り扱ってもらえます。表示を止めさせるという観点からすれば、必ず対応してもらえる不競法の方が、可能性は高まります。

 また、不競法2条1項20号は、損害について不競法5条2項の推定を受けられます。

 景表法の場合も、民事訴訟で景表法違反行為が一般不法行為(民法709条)を構成するとはいえるでしょうが、損害額の推定は受けられません。有利誤認表示のように被告側の比較対象となっている場合であれば、損害との因果関係が認められやすいかもしれませんが、その他のケースでは、損害の立証が難しいことが多いでしょう。

 推定されても実際には独占権を定めているわけではない不競法2条1項20号の場合、ほとんどが推定覆滅してしまうのですが(例えば、知的財産高等裁判所令和3年3月30日判決(平成31年(ネ)第10008号)では、95%覆滅しています。)、例えばメーカーを偽った場合のように、品質誤認表示と原告の結びつきが強ければ覆滅割合は少なくなるでしょうし、そもそも相手の利益全部が損害と推定されているので、大幅に覆滅してもそこそこの金額になるケースもあると思います。

 以上のような理由で、不競法2条1項20号は、もっと利用されてもおかしくない条文だと感じています。「パクられた」系の相談が来ることが多い弁理士の先生、その際には、一度不競法2条1項20号を検討してみてください。

河部

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