弁護士ノート

lawyer notes

自動車エンジン開発に求められること

2020.01.24 特許法

はじめに
私は、大学院を修了後、自動車メーカーに入社してエンジンの研究開発を担当しました。法曹の道に進んでからは、数々の自動車に関する知財紛争を経験する機会に恵まれましたが、その際に、自動車エンジンにかかる知識が紛争解決に大いに役立ちました。
そこで、弁理士先生や知財弁護士先生のお役に立てればと思い、自動車エンジンに関する基礎技術について書いてみることにしました。
まずは、自動車エンジン開発に求められることについてご説明いたします。

1 自動車エンジン開発に求められること

自動車エンジンは、高出力、軽量・コンパクト、低燃費、低公害、低コスト等が要求されますが、それらを達成するために、①熱効率の向上、②高回転化、③吸気・排気効率の向上等を目指した開発が求められます。

2 ①熱効率の向上
①熱効率の向上とは、自動車エンジン(ガソリン)の燃焼サイクルを、できる限り理想燃焼サイクル(オットーサイクル)に近づけることです。

図:4ストロークガソリンエンジンのサイクル(JSMEテキストシリーズ熱力学、社団法人日本機械学会、2002.7.1、p134)

エンジンの熱効率は、圧縮比((燃焼室容積+排気量)/燃焼室容積)を上げることで向上しますが、圧縮比を上げると異常燃焼によるノッキング等の弊害が生じてしまうため、現状はガソリンエンジンで圧縮比10程度に設定されています(圧縮比10だと、理論熱効率で60%程度、実際の熱効率はせいぜい35%程度です。)。

そこで、異常燃焼を抑制しつつ、より圧縮比を上げるために、燃焼室のコンパクト化、筒内乱流(スワール流、タンブル流等)強度の向上による急速燃焼の実現、センタープラグ化による均一燃焼の実現等を目指した開発が進められています。

3 ②高回転化

②高回転化を図るためには、ショートストローク化や摩擦損失(フリクション)低減が効果的です。
フリクションの低減を図るために、固体潤滑剤を用いたピストンの表面処理、クランクピン・ジャーナル径の細軸化、エンジンオイルの低粘度化等についての研究開発が進められています。

4 ③吸気・排気効率の向上
③吸気・排気効率の向上には、吸気バルブと排気バルブの大径化が効果的ですが、大径化するにもレイアウト上の限界があります。
そこで、バルブタイミング制御、吸気管長の調整等によって吸気・排気効率を向上させるための開発が進められています。

(田仲)

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