弁護士ノート

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押印と契約書②〜コロナ禍終息後の知財関係書類

2020.07.02 弁護士:神田 秀斗 その他の知的財産関連業務

1 原則押印は不要!?
 典型的な法律行為である契約について検討すると、民法上、契約締結方式自由の原則というものがあります。これは、契約を締結するにあたっての方式(書面や口頭等)について、当事者が自由に決定できることをいいます。従来はこれについて明文の規定はありませんでしたが、本年の4月1日から施行されている改正民法第522条第2項には、契約締結方式自由の原則が明文化されています。
 したがって、契約は、原則として口頭でも成立しますので、契約成立の要件として、書面を用意して押印をすることは必須ではないということが分かります。前回ご説明したことは、契約書が裁判において証拠としての効力を有するために押印が必要であるという話であって、契約自体は口頭でも成立するということと分けて考える必要があります。
 もっとも、契約自体は口頭でも成立するという原則には一部例外があります(改正民法第522条第2項は「法令に特別の定めがある場合を除き」と規定しています。)。代表的な例でいえば、保証契約は民法上書面でしなければならないというものです(民法第446条第2項)。この場合には、物理的な保証契約(書面)を作成する以上、押印(+印鑑証明書の添付)をすることが通常です。

 
2 メールでの代用
 前回ご説明したとおり、裁判において書面が証拠としての効力を有するためには、民事訴訟法第228条第4項に従い、押印が必要です。かかる規定が無くならない限り、いくら契約締結方式が自由と言っても、裁判での立証リスクに備え、押印することをやめる人はいないように思われます。
 内閣府等が公表したQ&Aには締結前後のメール等により、押印に代えられるとしていますが、「メールという不確かな立証手段に頼るよりも、確実な押印を。」というのが実務感覚かなと思います。

3 電子署名
 以上からすれば、「やっぱり押印はなくならないじゃないか。」と思われるかもしれません。もっとも、民事訴訟法第228条第4項には例外があります。それは、電子署名及び認証業務に関する法律(以下「電子署名法」といいます。)第3条です。重要な条文ですので、以下引用します。

「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」

 これについては、長くなりますので、次回説明します。
 

4 印紙について
 押印不要論からは、印紙の点も主張されていますので、若干触れます。
 結論として、電子契約であれば印紙は不要です。印紙税法基本通達第44条第1項によれば、印紙税が発生する課税文書の作成とは、「単なる課税文書の調製行為をいうのではなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。」とされています(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/inshi/inshi01/07.htm)。これは明らかに「紙」を想定した記載です。かかる通達から、印紙の対象となる課税文書には電子契約は含まれないと解されています。 

 
5 次回
 次回は、電子署名法第3条の意義、押印の是非について並存説立場及び知財関係書類への影響について検討してみたいと思います。

(神田)

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