弁護士ノート

lawyer notes

改正不正競争防止法について②

2017.05.08 弁護士:神田 秀斗 不正競争防止法

1 刑事罰の強化

 前回のブログでは、不正競争防止法が改正されたことに伴い、民事上の救済が強化されたことについてご説明しましたが、今回は刑事罰が強化されたことをご説明します。改正点が多いですが、企業の方の営業秘密を守るため、効果的な規定についてご説明します。

2 情報流出による被害拡大防止

 新日鐵住金の元社員がポスコと共謀して、新日鐵住金の営業秘密を外国企業へ漏えいした事件をご存知の方も多いと思います。この事件において、新日鐵住金は、ポスコに対して、約1000億円の損害賠償を請求しており、営業秘密が侵害された場合の被害の大きさが伺い知れます。

 このような甚大な被害が発生するにもかかわらず、不正競争防止法では、刑事罰について限定的な規定しか置いていませんでした。すなわち、そもそも親告罪である上、未遂規定もなく、国外犯についての処罰が限定的でした。これでは、犯罪を行って刑罰を科される不利益を、営業秘密を利用することによる利益が上回り、刑罰が犯罪の抑止力となっていません。

 そこで、以下のとおり、今般、営業秘密を侵害する行為について、刑事罰を科す範囲を広くするとともに、かつ量刑が重くなりました(海外重罰及びその量刑については割愛します。)。

3 営業秘密の転得者処罰の範囲拡大

 これは、「インターネットの発展」や「IT化」により営業秘密が転々流通する危険性に対応するものです。

 改正前の不正競争防止法においては、最初に営業秘密を取得した者からさらなる不正開示を受けた者(以下「二次取得者」といいます。)のみが処罰の対象とされていました(旧法21条1項7号)。

 今般の不正競争防止法の改正により、かかる二次取得者の処罰規定を残しながらも、さらに営業秘密を不正取得した、三次取得者、四次取得者、五次取得者・・・についても、処罰対象とする旨の規定が追加されました(改正法21条1項8号)。

 もっとも、三次取得者、四次取得者などは、それまでの事情を全く知らずに営業秘密を取得する場合があり、このような場合にまで刑事罰を科すことは妥当ではありません。そこで、三次取得者以降の者の処罰については、不正開示された営業秘密であることを知って取得した場合に限定されています。

4 未遂規定の新設

 従来、営業秘密侵害行為については、既遂犯のみが処罰されていました。例えば、営業秘密にアクセスしようとしたものの、営業秘密を取得しなかった(できなかった)場合や、営業秘密を開示しようとしたものの、開示先に届かなかった場合などは処罰の対象となっていませんでした。

 今般の改正により、このようないわゆる「未遂」行為についても処罰の対象となりました(改正法21条4項)。これにより、営業秘密が「取得」されたという立証が困難な場合でも、アクセスログ等により、営業秘密にアクセスしたという事実のみで処罰が可能となります。もっとも、どの時点までいけば「未遂」と評価できるのかは、刑法の議論も絡み、なかなか容易ではありません。

5 営業秘密侵害罪の非親告罪化

 今般の改正により、営業秘密侵害罪が非親告罪化されました(改正法21条5項)。親告罪とは、告訴がなければ刑事罰を科すことができない犯罪類型をいい、非親告罪とは、その逆、すなわち、営業秘密を保有する企業が告訴をしなくとも、警察や検察の主導により立件することが可能な犯罪類型をいいます。

 営業秘密は、企業のノウハウとして自社管理されているものですが、かかる営業秘密を不正使用した者に対して刑事罰が科せられる場合、民事上の裁判と異なり、刑事裁判は原則公開されますので、営業秘密も公開されてしまいます。これでは本末転倒です。そこで、従来は、このような営業秘密の公開という不利益を甘受しても刑事罰を科すか否かの判断を企業に委ねていたわけです。

 しかしながら、平成23年の不正競争防止法の改正により、刑事裁判の公判審理において、営業秘密を明らかにしない秘匿決定等の手続(改正法23条以下)が整備され、刑事裁判において営業秘密が公開されるという上記の問題点が大きく解消されました。そこで、もはや営業秘密侵害罪について親告罪化する必要性がなくなったことなどの考慮があり、上記の改正がなされました。

 もっとも、営業秘密侵害罪については、警察が企業の内部情報を十分把握しているわけではないため、これを立件するには、企業の方の協力は不可欠です。上記のご説明を白紙にしてしまうようですが、捜査機関に営業秘密侵害行為がなされたことを認知させるために告訴はやはり必要であろうと考えられます。

6 刑事手続の効果的な利用のススメ

 営業秘密が侵害されたと判明した場合、企業の方が採り得る手段としては、侵害者に対して民事上の責任を追及するというのがまず第1に思い浮かぶと思います。

 しかしながら、企業の方が自ら収集できる証拠について限界があり、国家権力と私人では、強制力をもった捜査権限を有するか否かで大きな違いがあります。そこで、刑事手続を利用して捜査機関に証拠を収集してもらうことは非常に有用です。

 その際には、警察・検察に告訴をした上で、上記の秘匿決定の申入れをし、刑事の公判手続において営業秘密が公開されてしまわないよう、警察・検察とよくご相談することをおすすめいたします。

(神田)

BACK