弁護士ノート

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現代アートと特許!?

2020.11.05 弁護士:木村 剛大 Art Law 特許法

「アート」=「著作権」。これは確かに正しい理解です。しかし、現代アートはとにかく多種多様な作品があります。例えば、チームラボの「お絵かきタウン」をみてみましょう。実際に体験したことのある方も多い作品かもしれません。

チームラボは、「お絵かき画像表示システム」という発明の名称で、特許を取得しています(特許第5848486号)。特許庁に出願して審査を受け、特許を取得すると、特許公報の【特許請求の範囲】に記載した範囲でアイデアを独占することができます。

「お絵かき画像表示システム」の請求項1は次のように書かれています。難しい用語が並んでいますが、図とともに読むと理解しやすくなります。

【請求項1】
オブジェクトが描かれた物理媒体をスキャンして画像データを取り込む画像取込装置(1)と,
前記画像データからオブジェクト画像を生成する制御装置(2)と,
前記オブジェクト画像を表示する表示装置(3)と,を備えた
画像表示システムであって,
前記制御装置(2)は,
前記画像取込装置から前記画像データを取得する画像入力部(10)と,
前記画像データを解析する画像解析部(11)と,
前記画像解析部(11)の解析結果に基づいて,AIプログラムデータベース(12)から一又は複数のAIプログラムを読み出すAI読出部(13)と,
前記画像データの中から前記オブジェクトが描かれた領域を抽出して前記オブジェクト画像を生成する描画処理部(14)と,
前記AI読出部(13)によって読み出された前記AIプログラムに基づいて,前記オブジェクト画像を制御するオブジェクト画像制御部(15)と,
前記オブジェクト画像制御部(15)によって制御される前記オブジェクト画像を前記表示装置(3)に出力する画像出力部(16)と,を有しており,
前記オブジェクト画像制御部(15)は,
比較的新しく生成された一又は複数の前記オブジェクト画像を第1仮想レイヤで動作させるとともに,
比較的古くに生成された一又は複数の前記オブジェクト画像を前記第1仮想レイヤの背面となる第2仮想レイヤで動作させる
画像表示システム。

では、アート作品に関して、特許をとる意味はどこにあるのでしょうか?

著作権法は、創作的な「表現」を保護し、「アイデア」を保護しません。ひとつのアイデアからはたくさんの表現が生まれるはずであり、抽象的なアイデアを特定の人に独占させるのは、多様な表現が生まれることを志向する著作権法の目的に沿わないと考えられているためです。

しかし、現代アートではコンセプト、アイデアが重視されます。そのため、著作権だけではアーティストが保護したい範囲をカバーできなくなっているともいえます。

特許は、まさに発明という技術的思想、「アイデア」を保護する制度であり、請求項に記載された範囲であれば、具体的なデザインや形状、色彩(著作権法でいう表現)が違っていても、特許による独占の範囲になります。

「お絵かきタウン」は、参加者が絵を描いてディスプレイに投影するというインタラクティブな作品なので、特定の図柄が固定されるわけではない、という特殊性も考えて特許をとる選択をしたのかもしれません。

アートであっても、技術的な工夫がなされていれば、特許がとれる余地があるのです。

ちなみに、特許を出願する際には、背景技術として、従来の技術ではこういう課題があり、この特許が提供する発明によって課題が解決できる!ということを記載します。

このチームラボの特許で記載されている課題は、「…従来の画像処理装置は、原稿から取り込んだ画像データを静止画としてディスプレイに表示させるものであり、面白味に欠けるものであった。」という何とも面白味溢れる記載となっておりますので、一読の価値ありです。

弁護士 木村 剛大

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