弁護士ノート

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活用が進むNFTとルール設計

2021.09.09 弁護士:木村 剛大 Art Law エンターテインメント法 著作権法

2021年3月、BeepleのNFTデジタルアート作品《Everydays: The First 5000 Days》が現存アーティストによる落札額第3位となる約75億円(6934万6250ドル)で落札されました。

Beeple  Everydays: The First 5000 Days 2021 出典=クリスティーズ・ウェブサイト

これをひとつのきっかけとしてNFTに注目が集まり、NFTという言葉を聞く機会も格段に増えたのではないでしょうか。NFT(Non Fungible Token、非代替性トークン)とは、ブロックチェーン上での取引に用いられるユニークな(代替性のない)トークン(本来の意味としては、しるし、象徴)のことをいいます。

デジタル作品はいくらでもコピーできますが、NFTと組み合わせることにより、唯一性を持ったデジタル作品という新しいカテゴリーが生まれたのです。

このように唯一性を持ったデジタル作品の購入者は、絵画、彫刻などの物理的作品のように作品の所有権を持つと思われるかもしれません。

しかし、民法上、所有権の対象になる「物」は「有体物」(民法85条)とされており、有体物(物理的作品)を伴わないデジタル作品には法律で決まった権利は与えられていません。

そのため、購入者が「所有権的な権利」を持つとしても、どのような範囲でデジタル作品を利用できるのか派手ジタル作品の作者がルールを決めておく必要があります。

例えば、ダミアン・ハーストの2021年のNFTプロジェクト「The Currency」では、規約でNFT保有者が何をできるのかのルールが規定されています。概要は次のとおりです。

 ・著作権:著作権、知的財産権はアーティストにある。
 ・購入者のオーナーシップ:購入者は、デジタル作品のオーナーシップ、つまり、NFT作品を保有し、売却し、移転す
  る権利を有する。
 ・ライセンス:NFT保有者は、セカンダリーマーケットで売却、移転、取引するために展示、シェアすること、ソーシ
  ャルメディアやデジタルプラットフォームで自らの購入やオーナーシップをシェアするために展示、シェアするこ
  とができる。
 ・ライセンスの範囲外:NFT保有者は、営利目的でデジタル作品のコピーを制作したり、販売したりすること、作品を
  改変し、派生作品(二次的著作物)を制作すること、他の作品にデジタル作品を組み込むこと、NFTを含む追加の暗
  号トークンをミントしたり、生成したりすること、その他営利目的でデジタル作品を利用することはできない。

もちろんこれはひとつの例で、NFT保有者に二次創作を許可したり、より広い範囲で作品を複製するライセンスを付与したりするケースもあります。

また、NFTは、アート業界に限らず、様々な分野で新たな取り組みが行われています。2021年6月にはPerfumeの振付のなかで象徴的なポーズを3Dデータ化したNFTアート「Imaginary Museum “Time Warp” 」がライゾマティクスによるマーケットプレイスNFT Experimentでリリースされました。

このように活用が進むNFTですが、法律上のルールが曖昧なため、契約でのルール設計が求められることになります。

弊所ではNFTに関するルールのドラフティングも行っています。また、NFTに関する記事もメディアに寄稿していますので、ぜひご覧ください。

「注目を集めるNFTアート。新たなマーケットに求められるルールの明確化」ウェブ版美術手帖(2021年5月3日)
「シリーズ:アートと法の基礎知識–NFTの産物。アーティストたちによるクリエイティブなルール設計の試み」ウェブ版美術手帖(2021年7月31日)
「NFTアートで芸術家は自由を手にした?アーティストと弁護士が語る、アート業界の天変地異。」BRUTUS (ブルータス)941(2021年7月1日号)108-109頁

弁護士 木村 剛大

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