弁護士ノート

lawyer notes

ファッションデザイン保護の一つの可能性?(ドクターマーチン事件)

2024.04.01 弁護士:平塚 健士朗 Fashion Law 不正競争防止法 知的財産訴訟

1. ファッションデザインの保護
 ファッション業界の法律関係については、2023年に経済産業省がワーキンググループを立ち上げて、ガイドラインをまとめるなど、近年ますます注目を集めていますが、ファッションデザインは十分に保護されていると言い難いのが現状です。
 実際に、女性用ハイヒールの靴底に赤色を付した、ルブタンの「レッドソール」について、不正競争防止法2条1項1号又は2号に基づく請求が棄却されたことは記憶に新しいかと思います(ルブタン事件(令和4年(ネ)第10051号))。

2. ドクターマーチン事件(令和5年(ネ)第10048号。以下「本件判決」といいます。)
 そのような中で、ドクターマーチンのブーツ「1460 8ホールブーツ」について、不競法2条1項1号に基づく請求を認容する判決が出されました。あくまでも事例判断なので単純比較はできませんが、ルブタンとは異なりドクターマーチンの「1460 8ホールブーツ」については不競法による保護が認められたことになります。

【本件判決の原審(令和2年(ワ)第31524号)判決別紙原告商品目録より】

 ちなみに、本件判決では、「1460 8ホールブーツ」が、以下のような形態の特徴を有していることについて、「特別顕著性を備える」と判断しています。
 「特に形態(ア)(黄色のウェルトステッチ)、形態(イ)(ソールエッジ)及び形態(ウ)(ヒールループ)の3点において、他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有し、強い出所識別力を発揮していると認められる。さらに、個別にみればさほど特徴的な形態とまではいえない形態(エ)~形態(ク)とも組み合わせて全体的に観察すれば、他の同種商品(ブーツ)には全く見られない顕著な特徴を有するものといえる。すなわち、上記の形態(ア)~(ク)の特徴を全て備える被控訴人商品は、いわゆる特別顕著性を備えるものと認められる。」。ここでいう形態(エ)~形態(ク)とは、「ソールパターン(形態(エ))、アウトソール踵部分の傾斜(形態(オ))、丸みを帯びた靴の前部(形態(カ))、ピューリタンステッチ(形態(キ))及び8ホール(形態(ク))」を指しています。

 上記の記載からもわかるように、「1460 8ホールブーツ」の一部の形態ではなく、全体的な形態を具体的に捉えて商品等表示該当性を認めています。その意味では、本件判決により「1460 8ホールブーツ」に認められた保護の範囲は、比較的狭いといえます。

3. 所感
 「1460 8ホールブーツ」は、比較的スタンダードでシンプルな形状のため、あまり普段ブーツを履かない方からすると、どこに特別顕著性があるのかよくわからないかもしれません。しかし、普段ブーツを履いていて、「1460 8ホールブーツ」も持っている身からすると、上記の形態に特別顕著性が認められたことは、個人的には納得です。

 なお、ルブタン事件の原審(平成31年(ワ)第11108号)と判断が分かれた点については、既に多くの専門家が指摘しているところですが、商品等表示として主張されている商品形態の特定の程度にあると考えられます。すなわち、ルブタン事件では単に女性用ハイヒールのソール部分に特徴的な赤色を付したものが判断対象となっているのに対して、本件判決では上記各形態の特徴を全て備えたものが判断対象となっており、より具体的な形態が判断対象となっています。

 最後に、「1460 8ホールブーツ」はブーツの中ではかなり有名な商品であるため、これが不競法上保護されたといっても、ファッションデザインの保護のハードルは依然として高いままです。しかし、本件判決は、ファッションデザインが具体的にどのような場合に不競法上保護される余地があるかを示すものとして、その原審の判断も含めてとても参考になります。特に、ブランドの顔となるようなサイクルの長い商品について、不競法による保護を検討する上で、実務上(ブランド戦略的にも)意義のある裁判例といえます。

弁護士 平塚 健士朗

BACK