弁護士ノート

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香港の会社設立手続

2026.01.06 弁護士:神田 秀斗 一般企業法務

 本ブログでは、香港で株式会社を設立する流れについて簡単にご説明したいと思います。本ブログをご覧いただいた場合、大まかな設立の流れをご理解いただけるようにしています。
 ただし、全体を俯瞰するという観点からあまりに細かな必要書類については言及をしていません。したがって、本ブログで触れられていない書類が要求されることもあり得ますのでご留意ください。
 また、事業開始にあたり非常に重要となる銀行口座の開設についても触れておりません。もっとも、近年銀行側の審査が厳しくなっており、適切な書類を準備できないと想定以上の時間を要する可能性があることに注意が必要です。

 以上の点にご留意いただいた上で本ブログをご覧いただければ幸いです。

1.進出の仕方
 日系企業が香港に進出する際、①現地法人の設立、②支店の設立、③駐在員事務所の設立という3パターンがあり得ます。まずはこの点について解説します。

 それぞれメリット、デメリットが存在します。

 ①現地法人の場合には、最大のメリットとして香港の低税率を享受することができる一方で、設立、運営、維持にコストがかかります。

 ②支店の場合、会計監査を要しない点や香港での損失分について日本本社の利益と相殺できる点がメリットとして挙げられますが、(日本貿易振興機構(ジェトロ)香港事務所海外展開支援部・2023年度中小企業海外展開現地支援プラットフォーム事業調査レポート 海外進出に関する制度情報(2024年3月改訂版)3頁)、他方で、本店に係る登記や定款の翻訳といった設立手続の手間、年次報告書の提出が現地法人と変わらず義務付けられるなどの維持運営上の手間が指摘されます。
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2024/02/ce15a9290643dd1e.html

 ③駐在員事務所は、あくまで現地の情報収集等を行うのみであり、営業活動ができない点で現地法人及び支店と明確に区別されます。日本において駐在員事務所は法人格がないため登記等の手続は要しませんが、香港の場合には税務局商業登記署(Inland Revenue Department, IRD)への商標登記証の登記が必要となります。

 以下では、上記のうち、現地法人の設立を行うプロセスについて解説します。

2.形式 – どの会社形態を選択するか
 会社を設立するとなった場合、以下の5つの形態が候補となりますが、ほとんどの場合、②が選択されます。

 ①a public company limited by shares
 ②a private company limited by shares
 ③a public unlimited company with a share capital
 ④a private unlimited company with a share capital
 ⑤a company limited by guarantee without a share capital

 すなわち、株主の責任は出資額に限定され、かつ株式に譲渡制限が付された形式です。その他、株主の数は50人に限定され、かつ株式及び社債の公募禁止という条件を遵守しなければなりません。
 本ブログでは②を前提に解説します。

3.会社名
 設立手続に入る前に会社名を決めなければなりませんが、その際、Companies Registryに登録されている既存の会社名と一緒のものになっていないかチェックが必要です(同じ又は極めて類似する名前の会社があった場合には登録が拒絶されます)。

 香港の研修先事務所では、クライアントに対して3つの候補名を挙げていただくようにお願いしていました。

 言語としては英語のみ、中国語のみ、又は英語及び広東語の3つのオプションがあります。ただし、英語と中国語の双方が一部分ずつ用いられるものは不可です(例えば、「香港food有限公司」は不可)。なお、香港では、中国語は繁体字(traditional Chinese)である必要があり簡体字(simplified Chinese)を用いることはできません。

 また、会社名が既に商標登録されている場合、その使用が商標権侵害となるリスクがあることから、商標調査を行うことも推奨されています。

4.定款作成
 会社設立の手続を行うにあたり、会社定款(articles of association)を作成する必要があります。
 もちろん一から作成することもできますが、Companies (Model Articles) Notice (Cap. 622H)によりサンプルが提示されており、それをそのまま採用することができます(上記②の会社形態の場合は、schedule 2を参照します)。

5.書類の提出
 (1)形式 紙での提出と、オンラインでの提出の2種類があります。

 (2)手続 紙の場合とオンラインの場合とで手続が異なります。
  紙の場合、以下の書類の提出が必要です。
  ①定款のコピー
  ②NNC1フォーム(Incorporation Form)
  ③NNC3フォーム(Consent to act as First Director)
  ④IRBR1(Notice to Business Registration Office)

  他方、オンライン提出の場合、以上の②~④のフォームについてはオンライン上で記入することになります(なお、事前登録が必要です)。

 (3)費用(ソリシターの費用を除く)
 紙の場合の登録費用がHK$1,720、オンラインの場合がHK$1,545です。
 また、営業登録費としてHK$2,200をBusiness Registration Officeに納付する必要があります。

 (4)要する時間
 必要な情報が揃えば、1週間程度で申請が可能です。
 申請後、登記官が必要な要件を具備したと判断したとき、紙申請の場合には設立証明書(certificate of incorporation)と営業登録証(business registration certificate)を4営業日以内に発行します。オンラインの場合には、1時間以内です。

6.株主及び取締役
 最低1名の株主が必要です。法人であるか自然人であるかを問わず、また香港での居住も必要ありません。

 資本金はHK $1から可能です。

 取締役に関しては、上記②の会社形態の場合、最低1名の自然人(18歳以上)の取締役が必要です(1名が法人取締役の場合、もう1名の自然人取締役が必要)。取締役についても香港居住要件はありません。

 株主は、取締役を兼ねることができます。

7.Company Secretary
 Company Secretaryとは、株主総会や取締役会の書類作成、株券の登録、年次報告書(annual return)の提出を主な業務とする者です。これは日本にはない肩書のため注意が必要です。

 Company Secretaryは、会社の形態を問わず必要となります。

 上記のように香港での業務をメインとすることから、自然人の場合は香港居住者であること、法人である場合には香港に登録事務所を有することが必要になります。

 Company Secretaryは、当該会社の取締役が1名である場合、その取締役と兼ねることはできません。すなわち、取締役とは別にCompany Secretaryを選任する必要があります。

 多くの場合、設立予定の会社は、法律事務所や会計事務所のCompany Secretaryに就任を依頼します。Company Secretaryは、年1回、上記の年次報告書の提出及び株主総会の開催が必要であり、香港に常駐していない会社担当者がアレンジするのは手間と考えられるからです。

8.Registered Office
 香港域内に登録事務所(registered office)を設けることが必要です。
 もちろん自社所有又は賃貸の建物所在地を指定できますが、法律事務所や会計事務所の住所を登録事務所として指定することもできます。

いかがでしょうか。本ブログが香港進出を検討されている方の一助になれば幸いです。

弁護士 神田 秀斗

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